アート&カルチャー


第151回 茅ヶ崎市美術館
Chigasaki City Museum of Art
(神奈川県茅ヶ崎市)



秋の深まりとともに残暑疲れも次第に癒え、アートの秋を楽しむ余裕がでてきた今日この頃。

タイミングよく10月は、魅力的な展覧会が目白押しです。

その中でも、赤ちゃん連れでも楽しめるミュージアムとして一押しなのが、湘南・茅ヶ崎に位置する茅ヶ崎市美術館で開催中の 「開館20周年記念−版の美U−原安三郎コレクション 小原古邨展−花と鳥のエデン−」。 (2018年9月9日〜11月4日:前期/2018年9月9日〜10月8日・後期/2018年10月11日〜11月4日で全点入れ替え)

開館20周年を迎えた茅ヶ崎市美術館が、「版の美」と称し、年間の展覧会を通じて版画の魅力を紹介するシリーズの第2弾!

日本化薬株式会社を率いて財界に存在感を示した実業家・原安三郎(1884−1982)旧蔵の小原古邨作品の展覧会です。

原安三郎氏といえば、2016年にサントリー美術館で開催された「原安三郎コレクション 広重ビビッド」展で話題になったように、 葛飾北斎や歌川広重などの熱心なコレクターとしても有名ですね。

しかし、小原古邨は、海外で高い人気を誇るものの、国内ではあまり知られていませんでした。

この展覧会では、古邨作品の中でも摺と保存状態の極めて良い原コレクションの古邨作品およそ260点の中から230点を初公開、また、 同じく原コレクションから歌川広重や歌川国芳などの貴重な花鳥画10点、さらに、祥邨、豊邨(古邨の変名)の作品も加え、 小原古邨の作品世界を楽しめる内容となっています。

早速展覧会(前期)を取材してきましたので、ご紹介しましょう。

茅ヶ崎市美術館へのアクセスはJR茅ケ崎駅南口より高砂通りを南へ向かい徒歩約8分です。駅南口のロータリーを渡り高砂通りを直進すると ほどなく左手に市図書館が見えてきます。隣接する高砂緑地入口の先に美術館入り口があります。

かつてこの地に明治時代の新劇俳優・川上音二郎、定奴夫妻の居宅(萬松園)が建てられ、その後、実業家・原安三郎が別荘を構えていたという 面影を今に残しています。

松を中心とした緑に囲まれたアプローチを進むと、小高い丘の上に、湘南の海に向かって飛び立つ鳥の翼をイメージする軽やかなデザインが印象的な 美術館建物が見えてきます。こちらが茅ヶ崎市美術館です。

エントランスを入り、受付でチケットを購入、早速展示室1から「原安三郎コレクション 小原古邨展 −花と鳥のエデン−」を 観てゆきましょう。

ところで、小原古邨(1877-1945)は、本名小原又雄といい、1877年(明治10年)金沢に生まれました。

花鳥画を得意とする日本画家・鈴木華邨に師事、古邨の名前で絵画共進会に日本画を出品し、たびたび褒状を得たという実力の持ち主。 明治末期には、版元・大黒屋から花鳥画を刊行し、海外への輸出を念頭に置いた版下絵で高い人気を獲得しました。

昭和期に入ると渡邊版画店から祥邨の名で、また、酒井好古堂と川口商会の合版では豊邨の名で制作を続け、特に海外で好評を博しました。

今回の展覧会は、国内初の原安三郎コレクションによる小原古邨展であるとともに、古邨の展覧会としても国内初の規模を誇ります。

展示は、「春」、「夏」、「秋」、「冬」、「花鳥画:吉祥、寓意」、「滑稽堂版」、「小原祥邨と小原豊邨」「古邨以前の花鳥画」 の8章から構成されています。

早速順に観てゆきましょう。 「春」の章は、梅から始まります。《梅に鶯》、《梅に月》など梅をモチーフとした作品が並びます。

次に目が引き付けられるのが《土筆に猿の親子》。微笑ましい猿の親子にかわいらしい土筆の取り合わせがなんとも心なごませる作品です。

そして、春を象徴する花といえば桜。《月に桜と烏》、《桜に烏》と桜に烏や月をとり合わせている作品がユニーク! 特に烏の漆黒の艶のある羽に注目です。「正面摺」という技法を使っているとか。

さらに枝垂れ桜や桜吹雪と鳥をモチーフにした作品が続き、《菜の花に揚羽蝶》と題するカラフルでインパクトのある作品が春を盛り上げます。

そして、季節は夏へと向かいます。

「夏」の初めは、梅雨時の風情を描いた作品が多く展示されています。

雨の情景を描いた作品として歌川広重の作品ががあまりにも有名ですが、《雨中の青楓に文鳥》をはじめ古邨の雨中の鳥を描いた 作品たちも、その空気感が素敵です。「板目摺」の技法が見所!

地味な作品も趣きがありますが、《芥子に金糸雀》などカラフルでモダンな作品も繊細にして華麗!

さらに《花菖蒲と翡翠》の構図と色彩の魅力的なこと!

他にも情緒豊かな《鳴子に鳥影》や《蓮に蛙》などなどなんとも美しい作品たちが並んでいます。

秋が深まるにつれ夜が長くなり、月や星が冴え、虫の声が最後の合唱をはじめます。 萩をはじめ秋の七草が野を彩り、山々は錦繍に染まり、実りの秋が始まります。 そして木々が葉を落とし冬へと季節は進みます。

「秋」の章は、《萩に鼬》から始まります。萩の花を前面に鼬の姿を形よく配した奥行のある構図、そして鼬の顔の愛らしいこと!

展示は途中B1Fの展示室2に移り「秋」をテーマとした展示は続きます。

中でも《猿と蜂》と題する作品が魅力的です。猿の仕草がなんともラブリー!古邨の描く動物たちの表情のかわいらしさは格別ですね! 作者の優しい人柄が感じられます。

また、たわわに実をつけた稲穂と雀と鳴子を描いた《鳴子に雀》や《稲穂に蝗》で表現される豊穣の秋。

そして《崖上の鹿》や《つがいの椋鳥》、《三日月に公孫樹と木菟》で秋はくれてゆきます

さて、冬は動植物にとって最も厳しい世界です。凍てついた大地に降り積もる雪!鳥たちも生き伸びるのに必死です。

「冬」の章では、雨の中に佇む田鷸を「板目摺」で表現した《雨中の田鷸》の静かな情緒にひたってみるのもいいかもしれません。

また、《大鷹と温め鳥》では、自然の厳しさを表現する作品に遭遇するでしょう。(冬季語にもなっている「温め鳥」とは、鷹などの猛禽類が小鳥を捕らえ、 一晩足を温めること。またその小鳥)

さて、古邨作品で四季をめぐったら、次は「花鳥画:吉祥、寓意」を観てゆきましょう。

孔雀は美の永遠性、虎や猛禽類は権威や気高さを、鶴は長寿、鳩は平和を、鵞鳥はのどかな生活を象徴しているそう。

また、白鼠は大黒様の使いとされ、狐は何かに化け人を騙す不思議な力を持つことで知られています。

この章では、《踊る狐》と題するユニークな姿の狐を表現した作品が魅力!

さて次は「滑稽堂版」をテーマとするコーナー。小原古邨は、小林清親の「光線画」などの出版で知られた両国の版元・大黒屋 から作品を発表しましたが、滑稽堂版の作品もあります。

滑稽堂は明治の初め秋山武右衛門が日本橋で開業し、主に月岡芳年の錦絵を出版した版元。 古邨の作品の刊行年は不明ですが、おそらく明治後期から大正初期といわれています。

大黒屋版の多くは大短冊版なのに対して、滑稽堂版は長大版が含まれ、《柳に星五位》のようにシンプルで力強い表現が特徴です。

「小原祥邨と小原豊邨」の章では古邨の大黒屋以降の創作活動が紹介されています。 小原又雄が古邨と号して作品を発表した大黒屋は、伝統木版画界全体の不振と関東大震災のあおりで衰退したため、古邨は、 祥邨と雅号を改め、「新版画運動の中心的存在である渡邊版画店より花鳥画を出版しました。

その特徴は、インパクトのある描写と色彩による高い装飾性です。

最後の章では、「古邨以前の花鳥画」が展示されています。

特に原安三郎コレクションの広重作品を中心とした花鳥画が展示されています。

たっぷり小原古邨の作品を堪能したら、最後に原安三郎の茅ヶ崎別荘・松籟荘(しょうらいそう)のコーナーに立ち寄りましょう。

原安三郎コレクションを築いた原安三郎関連資料や書、 さらに美術館の建つ土地にかつて建っていた瀟洒な南欧風の茅ヶ崎別荘の模型や壁紙などが展示されています。

芸術の秋、茅ヶ崎市美術館で開催中の「開館20周年記念 原安三郎コレクション 小原古邨展 −花と鳥のエデン−」にいらしてみませんか?

日本的な花鳥風月の情緒に西洋画風の写実性をともなった古邨作品の魅力を、素晴らしいクオリティの作品群で味わうことができるでしょう。

20世紀前半を代表する花鳥画家の世界を知るまたとない機会。お見逃しなく!

また、展覧会は、前期と後期、作品総入れ替えですので、是非両方をご覧になることをおすすめします。(前期のチケット提示で、後期の観覧料200円引き)

さらに展覧会関連イベントとして、【0歳からの家族鑑賞会 「ようこそ古邨 あつまれ!みるっこ家族鑑賞会」(申込制/先着順)】が10月2日(火) (10時30分〜11時30分)開催されます。

レクチャーを受けながら小さなお子さまも一緒に家族で作品に親しむことができる鑑賞会。対象になる方は、詳細を美術館HPでご確認の上参加されるのもおススメです。

受付に隣接するミュージアムショップでは、展覧会カタログはじめ、ポストカードなどミュージアムグッズが 取り揃えられています。

また、一息つきたい時は2Fのカフェで高砂緑地の緑を背景にランチやドリンク、スウィーツをいただくことができます。







【赤ちゃん連れのお母様へ】
・茅ヶ崎市美術館はベビーカーで入館できます。
・おむつ交換台・ベビーチェアーは1Fと2Fの女性用トイレ内にあります。
・エレベーターが設置されていますので安心です。
・美術館駐車場があります。(台数限定)





このコーナーでは、お子様連れで楽しめる皆さまお気 に入りの ミュージアム情報を募集しています。 お問い合わせフォームから、是非お寄せください。
また、このコーナーへのご意見・ご感想もお気軽にお寄せください。 お待ちしております。




茅ヶ崎市美術館 

茅ヶ崎市美術館

「開館20周年記念−版の美U−
原安三郎コレクション
小原古邨展−花と鳥のエデン−」

原安三郎コレクション
小原古邨《月に桜と烏》(左)《土筆に猿の親子》(右)
明治後期 紙、木版(多色)


原安三郎コレクション
小原古邨《菜の花に揚羽蝶》
明治後期 紙、木版(多色)

原安三郎コレクション
小原古邨《雨中の青楓に文鳥》
明治後期 紙、木版(多色)

原安三郎コレクション
小原古邨《芥子に金糸雀》
明治後期 紙、木版(多色)

原安三郎コレクション
小原古邨《花菖蒲に翡翠》
明治後期 紙、木版(多色)

原安三郎コレクション
小原古邨《萩に鼬》
明治後期 紙、木版(多色)

原安三郎コレクション
小原古邨《踊る狐》
明治後期 紙、木版(多色)

原安三郎コレクション
小原古邨《連翹に柄長と蜂》(左)《柳に星五位》(右)
明治後期 紙、木版(多色)

原安三郎の茅ヶ崎別荘・松籟荘のコーナー



 



施設情報

茅ヶ崎市美術館

住所:神奈川県茅ヶ崎市東海岸北1-4-45

TEL:0467-88-1177

開館時間:
4月〜10月 10:00〜18:00(入館は17:30まで) 11月〜3月 10:00〜17:00(入館は16:30まで)

休館日:
月曜日(祝日の場合は翌平日、翌々平日が休館) 祝日の翌日(翌日が休日の場合はそれ以降の最初の平日) 年末年始(12月28日〜1月3日) 臨時休館日(保守点検や展示替え等をおこなう日)

観覧料:
「開館20周年記念−版の美U− 
原安三郎コレクション 小原古邨展−花と鳥のエデン−」
・一般:700円(600円)
・大学生:500円(400円)
※高校生以下、市内在住65歳以上の方・
市内在住の障害者およびその介護者は無料
※(  )内は20名以上の団体料金
収蔵作品展:
・一般【高校生以上】200円(100円)
・小中学生100円(50円)
( )内は20人以上の団体料金
・未就学児は無料
企画展は展覧会ごとに異なります。

詳しくは、直接お問い合わせいただくか、
茅ヶ崎市美術館をご覧ください。

*取材協力・掲載許諾:
茅ヶ崎市美術館

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