アート&カルチャー


第164回 台東区立朝倉彫塑館
ASAKURA Museum of Sculpture, Taito
(東京都台東区)



山から里へ、街へと秋が静かに下りてきました。

11月は、紅葉前線が急速に南下する季節です。紅葉狩りに出かける方も多いことでしょう。 とはいえ美しい秋をさがしに行く暇がない方も多いかも。そんな方におすすめなのが、 秋の風情とアーティストの美意識に溢れた空間を同時に楽しめる素敵なアートスポットです。

そこで今回ご紹介するのが、日暮里駅にほど近い台東区谷中に位置する「台東区立朝倉彫塑館」。 彫刻家・朝倉文夫(1883年ー1964年)のアトリエと住居だった建物です。

東京美術学校(現東京藝術大学)を卒業した1907(明治40)年、朝倉は、この谷中の地に小さなアトリエと住居を建てます。 その後土地を買い足し、自らの設計・監督で、増築や建て替えを実施、現在の建物を1935(昭和10)年に完成させました。 コンクリート造のアトリエ棟と木造の住居棟を組み合わせた個性的な建物と、造園家との共同作業で作庭した庭園です。

朝倉は、「朝倉彫塑塾」と命名した後進を育成する専門学校を設立。自らのアトリエ、住まい、専門学校として、このこだわりの建物を楽しみながら作り、 活用しました。

朝倉没後は、ご遺族が受け継ぎ、1967(昭和42)年から朝倉彫塑館として公開されました。その後1986(昭和61)年に台東区に移管され、 台東区立朝倉彫塑館として現在に至っています。

2001(平成13)年には、その芸術的・鑑賞上の価値が認められ、建物が国の有形文化財に登録され、2008(平成20)年には、敷地全体が 「旧朝倉文夫氏庭園」として国の名勝に指定されています。

さて、朝倉彫塑館では、年に1回特別展が開催されています(それ以外の期間は常設展)。 現在開催されている特別展が「朝倉彫塑館の白と黒ーCONTRAST: Color, Material and Texture」。 朝倉文夫が設計した建物・庭園、制作した彫刻作品、そのほかの収蔵品について色と素材と質感の「対比」をキーワードに見どころを紹介する展覧会です。

取材してきましたので、早速ご紹介しましょう。

アクセスは、日暮里駅北改札西口から徒歩約5分と便利です。 駅西口を出て左手に進み緩やかな勾配の御殿坂を谷中銀座方面に上がり、最初の交差点を左折すると左手に緑に囲まれ 黒色のファサードが印象的な建物が見えます。屋上からのぞく彫刻が彫刻家の邸宅らしさをかもしだしています。

朝倉彫塑館は、個人の邸宅であったためバリアフリーではないので、安全確保、建物保全のため、靴を脱いで靴下を着用して入館します。

はきものを入れた靴袋を持ち、チケットを購入、さっそくアトリエ棟に向いましょう。

天井の高さ約8.5メートルの巨大なアトリエ空間には、機能的に作品を制作するための電動昇降台が設置されています。採光は、北窓からのトップライト、 東と南からの自然光。影をつくりたくない壁には、アールを設けるなど、光と影にこだわりを見せています。

そうした環境で、《松井須磨子像》や《いづみ》などの作品たちを、朝倉の対比の姿勢や陰影意識を考慮しながら、じっくり鑑賞してみてはいかがでしょう。

たっぷり彫刻展示を楽しんだら次に書斎に向かいましょう。天井まで作り付けられた書棚には、東京美術学校時代の恩師、西洋美術史が専門の岩村透の旧蔵書である膨大な数の洋書をはじめとする資料がぎっしり並べられています。

さて、次は木造建築エリアに進みましょう。 もともと数寄屋造を好んだ朝倉がコンクリート造を採用したのは、電動昇降台設置のためだったそうですが、 コンクリート造エリアはパブリック空間、木造エリアはプライベート空間と公私の境界を明確にしたかったのも一因かもしれません。

家の玄関にも対比意識がよく表れています。公的な門(玄関)は初音町側、私的な門(玄関)は天王寺町側と分けられていて、 名栗を真っ黒に塗装した初音町側の門に対し、竹を基調とする天王寺町側の門という対比もその一例です。

さらに興味深いのは、天王寺側の玄関です。門とは平行ですが、建物に対して少し斜めに作られているのです。また、天井板も斜めに張るなどのこだわりは、職人泣かせだったとか。

中庭に面した居室部分には、家族の居間、朝倉の自室、寝室が並んでいます。家族の居間は質素な造りですが、朝倉の自室は炉が切ってある 茶室仕様で、高級建材、神代杉の船底天井や自らデザインした煎茶の道具入れなど手が込んだ造作になっています。

さらに、1階部分での見所は、中庭です。南北約10メートル、東西約14メートル、四方をアトリエ棟と住居棟に囲まれ、池が大半を占めているユニークな デザイン。庭園は、朝倉の考案のもと造園家・西川佐太郎が完成させたそうです。

おもに日本各地から取り寄せられたという5つの大きな石と樹木、豊かな水によってダイナミックに構成されています。 建物のどこからでも楽しむことのできる庭園は、ひととき都会の喧噪を忘れさせてくれるでしょう。

お時間があれば、朝倉文夫と建築についての解説映像が上映されていますので、ご覧になるのもいいかもしれません。

さて、今度は2階に上がってみましょう。素心の間と次の間では、シックな黒壁や竹を多用した天井、丸太がアクセントになっている床の間が見所です。

開放された窓からは、中庭や白と黒の外壁、コンクリート造と木造の接合部分の手の込んだ細工などを見ることができます。

さらに3階に上がると明るく開放的な空間が広がっています。朝陽の間と呼ばれる客人をもてなすための大広間。 座敷は瑪瑙(めのう)壁、廊下は貝壁を施した贅沢な空間です。

部屋は和風ですが、構造的にはコンクリート建築の一部です。アールが多用されたデザイン、神代杉の天井板、 松の一枚板の床板、桐の一枚板の欄間など朝倉の内装材へのこだわりが半端ではありません。

さて、3階部分を抜けると屋外に出ます。靴を履き、鉄の階段を上ると、そこは屋上庭園です。

屋上庭園は昭和初期の鉄筋コンクリート建築における屋上緑化の貴重な事例の一つといわれています。 大きなオリーブの木がシンボルツリーとなり、季節の花が植えられているのが印象的! 菜園のコーナーもあります。

朝倉彫塑塾は彫刻の専門学校でありながら、園芸の授業が必修科目で、塾生は園芸実習の場として、 ここで大根や蕪、トマトなどを栽培していたとか。

今では、四季折々の花木と東京の街を360度見渡せる気持ちの良い屋上庭園になっています。

また、一角には、初音町側玄関から見える朝倉文夫の作品《砲丸》《ウォ―ナー博士像》が設置されています。

1階の中庭とは対照的な風景を見せる魅力的な屋上庭園です。お見逃しなく!(注:天候次第で閉鎖する場合あり)

さて、2階蘭の間には朝倉の猫の作品を展示しています。もともとこの部屋は東洋蘭のための温室でした。 朝倉は、本を書くほど蘭の栽培に熱を入れていたそう。

一方無類の猫好きでもあったことから、猫の作品を生涯にわたって制作していました。最晩年には100点の猫作品を展示するプロジェクトに挑んでいたそうです。

最後に階段を降りると、1階の玄関に戻ります。エントランスホールの竹と丸太の意匠なども見所です。お見逃しなく!

受付脇では、朝倉彫塑館ガイドブックをはじめオリジナルミュージアムグッズがとりそろえられていますので、のぞいてみては?

11月の天候の良い日、東京・谷中の朝倉彫塑館で開催中の特別展「朝倉彫塑館の白と黒ーCONTRAST: Color, Material and Texture」にいらしてみません か?(2019年12月15日(日)まで)

彫刻家・朝倉文夫が設計した建物・庭園や制作した彫刻作品、そのほかの収蔵作品を色と素材と質感の「対比」をキーワードに楽しむことができるでしょう。

東京の都心でアーティスティックな秋時間を過ごしてみてはいかが?



                                                                            



【赤ちゃん連れのお母様へ】
・館内ははきものを脱いで入館する施設です。靴下をご着用ください。
・段差や階段が多く、バリアフリーに対応していません。ご注意の上ご鑑賞くださいね。
・おむつ交換台は、1F受付横のだれでもトイレに設置されています。
・ベビーカーは持ち込めません。




このコーナーでは、お子様連れで楽しめる皆さまお気 に入りの ミュージアム情報を募集しています。 お問い合わせフォームから、是非お寄せください。
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台東区立朝倉彫塑館

特別展「朝倉彫塑館の白と黒
 CONTRAST: Color, Material and Texture」

左:朝倉文夫《いづみ》1964(昭和39)年 ブロンズ
右:朝倉文夫《いづみ》1914(大正3)年 ブロンズ

天王寺玄関

中庭

素心の間

朝陽の間

屋上庭園

屋上庭園






施設情報

台東区立朝倉彫塑館

住所:東京都台東区谷中7−18−10

TEL:03−3821−4549

開館時間:
9:30−16:30(入館は16:00まで)

休館日:
毎週月・木(祝休日にあたる時は開館し、翌平日が休館)
年末年始
展示替え等のため臨時休館あります

入館料:
一般 500円(300円)
小・中・高校生 250円(150)円 
※()内は20人以上の団体特別展の料金
障がい者手帳または、特定疾患医療受給者証をお持ちの方、及びその介護者は無料です

●来館時注意事項
*安全確保および建物保全のため館内では靴下を着用してください
*悪天候などの諸事情により屋上庭園が閉鎖されることがあります

詳しくは、直接お問い合わせいただくか、
台東区立朝倉彫塑館 をご覧ください。

*取材協力・掲載許諾:
台東区立朝倉彫塑館
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