アート&カルチャー


第155 回 大田区立龍子記念館
Ryushi Memorial Museum
(東京都大田区)

2月如月(きさらぎ)は、まだまだ寒さが続く衣更着(きさらぎ)とも草木が成長を始める生更木(きさらぎ)とも いわれます。

今年の2月は、晴天続きはいいのですが、カラカラ天気のためにインフルエンザの流行が止まりません。

こんなときのおでかけは、静かなゆったりとした環境で芸術鑑賞ができる美術館がおすすめです。

そこで、今回は、東京都大田区大森の閑静な住宅地にたたずむ大田区立龍子記念館(以下龍子記念館)と 龍子公園(旧龍子宅とアトリエ)をご紹介しましょう。

近代日本画の巨匠と称される川端龍子(かわばたりゅうし)の人と作品を紹介する美術館です。

ところで、川端龍子って?と思われた日本画初心者の方にちょこっとご紹介。

日本画家・川端龍子は、1885(明治18)年和歌山市に生まれ、10歳の頃に家族と上京。19歳の時画家を志し、白馬会、太平洋画会で洋画を学びました。

28歳の時に渡米し、ボストン美術館で見た日本美術に大きな感銘を受け、帰国すると日本画に転向したのです。

その2年後の1915(大正4)年には、再興第2回日本美術院展に初入選し、以降、院展の花方として活躍しました。

しかし、院展を突如脱退すると、1929(昭和4)年に美術団体「青龍社」を設立。戦中も欠かさず毎年の青龍展を開催し、 1959(昭和34)年に文化勲章を受章しました。

最晩年の1963(昭和38)年に龍子記念館を開館し、1966(昭和41)年4月10日、80歳でこの世を去りました。 (大田区立龍子記念館案内より)

龍子記念館は、川端龍子自身のデザインで、文化勲章受賞と喜寿を記念し 1963年に設立されました。

1991年からは、当初より運営をおこなってきた社団法人青龍社の解散にともない、大田区立龍子記念館としてその事業を 引き継いでいます。

記念館では、大正初期から戦後にかけての140点あまりの龍子作品を所蔵し、多角的視点から龍子の画業を紹介しています。

展覧会は、年3回ほど。今回開催されている企画展が、名作展「古典と革新 画壇に挑みつづけた男」(2019年4月14日[日]まで)。

「床の間」を飾ってきた旧来の日本画に対し、「会場芸術」を主張し、展覧会場において作品と時代、そして、観衆を結びつけることを目指した 龍子のコンセプトをよくあらわす展覧会です。

龍子は、大衆の関心の高い時事問題やそれまで扱われてこなかった革新的なテーマを日本画に取り込み、画壇の風雲児とも呼ばれました。 しかし、並行して古典的なテーマにも挑み「古今相通ずるものがあるべき」と、その現代的なあり方を模索しています。

今回の展覧会では、唐の王維が芭蕉を雪景色の中に描いたという故事を現代化した《炎庭想雪図》(1935年)、 稲荷明神の化身が刀匠の前に出現する能の演目を表した《小鍛冶》(1955年)、 中尊寺金色堂に眠るミイラを描いた《夢》(1951年)等の展示を通し、龍子作品における古典と革新への試みを再考しています。

取材してきましたので、早速ご紹介しましょう。

龍子記念館へのアクセスはJR京浜東北線大森駅からバスが便利。大森駅の改札(中央口)を出て、西口(山王方面)に向かいます。西口を背に右手へ進み、 東急バスの4番バス停から「02荏原町駅入口」に乗車、「臼田坂下」で下車し、バス通りに沿って少し進み、2つ目の通り(角が美容院)を左折。 そのまま進み、左手児童公園を通りすぎるとその先の左手に印象的なたたずまいの「龍子記念館」、右手に「龍子公園」があります。

記念館敷地に入ると「龍子草苑」と名づけられ、龍子の別荘・青々居のある修善寺から取り寄せた庭石やススキ、イタドリ、シダなどでデザインされた 中庭があります。

記念館エントランスには、さらに建物に沿って進み、階段(スロープ)を上がると到着です。

エントランスホールの受付でチケットを購入し、早速展示室で開催されている名作展「古典と革新 画壇に挑みつづけた男」に向かいましょう。

龍子の立像と直筆立札が出迎えてくれます。

名作展会場は、「会場芸術」を提唱した龍子のスケール感のある作品たちが並んでいて壮観!!

まず初めに展示されているのが、《小鍛冶》(1955年)。約2、5m×約7メートルに及ぶ大画面に稲荷明神の化身が刀匠の前に出現する能の演目を ダイナミックに表現した作品です。

次いでモノトーンで富士山《伊豆の國》(1941年)を描いた作品などが続きます。さらに富士に幾筋もの稲妻が走る《霹靂(はたたく)》(1960年)と 題する作品。龍子72歳の時に富士登山を敢行して描いた作品だとか。葛飾北斎に倣って雄大な富士の姿を力強く崇高な姿に描いています。

次の作品《龍子垣》(1961年)は、京都市北区鷹ケ峰にある光悦寺の庭園にある有名な光悦垣に触発され、 伊豆・修善寺の庭に作った自身で考案した垣根を描いたもの。 梅、藤、朝顔、百合などの花々や小鳥を、龍子の大好きな竹で豪快に組まれた竹垣に沿わせて描いた 龍子流花鳥図でしょう。

さらに次の《茸狩図》(1936年)は、両端に和服姿の美人を配し、中央に洋服姿の男性の茸狩を描いた構図が斬新で意味深長な作品。

さて、《御来迎》(1957年)は、大画面に富士山頂の日の出を印象的に描いた作品。雲海の中に馬の顔が浮かぶ西洋画風画面が新鮮です。

また、《白日夢》(1919年)と題する野菜畑を色彩豊かに描いたフォービズム的作品も魅力的!

さらに中尊寺金色堂に眠るミイラを描いた《夢》(1951年)と題する作品の耽美的な画面構成も西洋風ですね!

《炎庭想雪図》(1935年)は、唐の王維が芭蕉を雪景色の中に描いたという故事を現代化した作品だそう。

そして、次の《伊豆の覇王樹》(1965年)は、雄大な富士山をサボテンを前景に描いたモダンな作品です。 伊豆のサボテン公園で見た風景でしょうか。

さて、龍子は、 1950年から毎年四国遍路の巡礼に赴くと、さらに1951年から毎年1回、計5回の奥の細道巡礼の旅にでました。

松尾芭蕉が江戸を発ってからおよそ260年、奥の細道はすっかり表情を変えてしまいましたが、名所・史跡を訪れてはスケッチ を描くとともに俳句を詠み、龍子なりの奥の細道行脚を楽しんだとか。

そういえば、龍子は俳人でもあるのですね。弟(異母弟)は「ホトトギス」の俳人川端茅舍(ぼうしゃ)であり、 龍子も「ホトトギス」同人でもありました。

松尾芭蕉の歩んだ奥の細道を、龍子が巡遊し描いた《朝陽松島》(1951年)、《永平寺》( 1954 年)、 《陽明門》( 1955 年)といった絵画作品群と「奥の細道紀行短冊」が展示され、龍子の句作と絵画作品を共に楽しむことができます。

最後に、龍子が愛用した多数の絵具や画材もケース内に展示されていますので、お見逃しなく。

さて、龍子記念館で斬新な富士山の表現の数々をはじめ、龍子の古典と革新をテーマとした作品をたっぷり楽しんだら、 龍子公園を見学されるのがおすすめです。 記念館開館日の10:00、11:00、14:00に解説つきでご案内いただけます。

龍子公園は、龍子自らが設計した旧宅とアトリエを当時のまま保存しています。

旧宅は戦後1948〜54年、爆撃の難をのがれたアトリエは青龍社創立10周年となる1938年に建造されたものです。

また龍子公園内の「爆弾散華の池」は、終戦まぎわの空襲で壊滅した住宅部分を龍子が池として造成したそうです。

龍子宅とアトリエ、庭園には建築に造詣の深かった龍子の意匠へのこだわりが随所に込められていて素敵です。

公園入口から玄関へのアプローチは、重量感のある孟宗竹による竹垣で囲われ、梅や桜など季節の花木が植栽され、 ゆるやかにカーブした石畳がいかにも龍子的デザイン。2月は梅の見ごろかもしれません。

玄関には待合もありアトリエを訪問するゲストも多かったことでしょう。

アトリエは大きくモダンな建物で、軒や庇の部分は網代天井、玄関ドアの装飾はこだわりの卍です。

緑の庭園に囲まれたアトリエの広さは60畳、天井の高さも4メートル。この画室だからこそ大画面の作品が創作できたのだと思う広さです。 窓ガラス越しに大きな画材類の展示も見ることができます。

龍子がスケッチしたであろう様々な木々や草花が植栽されている広い庭園を歩き今度は、旧宅に向かいましょう。

旧宅は、2階建ての日本的家屋。熱心な仏教徒だった龍子は、旧宅の奥座敷に持仏堂を設けました。 当時は襖に、俵屋宗達の「桜芥子図」がはめ込まれていたそうですが、現在は、高精細の複製によって当時を 再現しています。

龍子はお堂に十一面観音と、脇侍の不動明王と毘沙門天などを安置、毎日、朝夕の礼拝を欠かすことはなかったとか。 現在仏像は、東京国立博物館で管理されているそうです。

龍子の意匠へのこだわりが随所に残る龍子公園は見所満載!展覧会とともに是非時間を合わせて見学されることをおすすめします。

また、記念館受付横のミュージアムショップには、展覧会図録、ポストカード、ミュージアムグッズなどが取り揃えられていますので、 お立ち寄りになってはいかがでしょう。

梅のほころぶ2月の一日、近代日本画の巨匠と称される異才、川端龍子の人と作品を紹介する大田区立龍子記念館にいらしてみませんか?

名作展「古典と革新 画壇に挑みつづけた男」で龍子が常に「新しい表現」を取り入れていこうとする姿勢で描いた、 様々な作品たちに感動することでしょう。 スケールの大きいダイナミックな作品には、エネルギーをいただけるかもしれません。

龍子公園の自然を楽しみがてら四季折々お出かけになるのもおすすめです。









【赤ちゃん連れのお母様へ】
・龍子記念館はベビーカーで入館できます。
・おむつ替えはバリアフリートイレにおむつ替えシートがあります。
・ミュージアムの駐車場があります。
・龍子公園は足元が悪いので、だっこひものご用意をおすすめします。





このコーナーでは、お子様連れで楽しめる皆さまお気 に入りの ミュージアム情報を募集しています。 お問い合わせフォームから、是非お寄せください。
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大田区立龍子記念館


大田区立龍子記念館
龍子草苑


大田区立龍子記念館


名作展「古典と革新 画壇に挑みつづけた男」
2019年12月22日(土)〜2019年4月14日(日)


展示室会場風景
川端龍子《小鍛冶》1955年

展示室会場風景
右:川端龍子《霹靂(はたたく)》1960年
中央:川端龍子《龍子垣》1961年
左:川端龍子《茸狩図》1936年

展示室会場風景
右:川端龍子《炎庭想雲図》1935年
川端龍子《伊豆の覇王樹》1965年

展示室会場風景
右端:川端龍子《朝陽松島》1951年

龍子公園・エントランス・アプローチ

龍子公園・旧宅

龍子公園・アトリエ

龍子公園・庭園

龍子公園・旧宅



 



施設情報

大田区立龍子記念館

住所:東京都大田区中央4-2-1

TEL:03-3772-0680

開館時間:9:00〜16:30
 (入館は16:00まで)

休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)
年末年始(12月29日〜1月3日)
展示替えの臨時休館

入館料:
【常設展】
 大人(16歳以上)・・・200円
 小人(6歳以上)・・・100円
(団体20名以上:大人160円/小人80円)
 65歳以上(ご年齢の確認できるものをご提示ください)
 6歳未満は無料
【特別展】
 企画内容によりその都度定める。


「龍子公園」
*ご案内時間:龍子記念館開館日の10:00、11:00、14:00の1日3回。
自由見学不可。

詳しくは、直接お問い合わせいただくか、
大田区立龍子記念館をご覧ください。

*取材協力・掲載許諾:
大田区立龍子記念館
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