アート&カルチャー

第65回 井戸尻考古館  IDOJIRI ARCHAEOLOGICAL MUSEUM
(長野県諏訪郡富士見町)

夏休みも佳境にはいりました。
原発とか節電とかとりわけストレスの多いこの夏。

涼風に吹かれ、清らかな水と自然いっぱいの
のんびりした高原でリフレッシュしたいですね。

しかもそこに日本創生期のロマンがあったらなお素敵!

広大な裾野を拡げる八ヶ岳の西南麓、遥かに富士山を望み、甲斐駒ケ岳をはじめ南アルプスを眼の前にする風光明媚な地に約5000年から4000年前の新石器時代(縄文時代)中期の文化が花開いていたことをご存じですか?

この文化は中部高地から南西関東にまで及んでいたといわれ、「井戸尻文化」と呼ばれています。

八ヶ岳の海抜800メートルから1000メートルに点在する井戸尻・曽利・藤内・九兵衛尾根などの「井戸尻遺跡群」からその文化の痕跡が発掘されています。

この地域の豊富な湧水による水の恵みがこれらの文化の担い手たちの生活を支え、集落を形成し、文化を育んだのかも知れません。

今回の赤ちゃん連れでも楽しめるミュージアムは、この古代文化の遺産を展示する長野県・富士見町の井戸尻考古館を訪ねます。

井戸尻考古館
http://userweb.alles.or.jp/fujimi/idojiri.html

ここでは、国の重要文化財の藤内遺跡の出土品や長野県宝の曽根遺跡4号住居址出土土器を中心に井戸尻遺跡群から出土したすばらしい土器・石器など約2800点が展示されています。

古代史ファンはもちろん、そうでない方にも、夏休みの避暑をかねたお出かけに、お子様たちの夏休みの自由研究のテーマにおススメスポット。

そうそう、この辺りは、昨年(2010年)出版された音楽家の坂本龍一氏と人類学者の中沢新一氏が書かれた『縄文聖地巡礼』(木楽社)で大注目されている地でもありますね。

それでは、早速出かけてみましょう。

東京からのアクセスは簡単!中央自動車道で2時間程度、小淵沢インターから信濃境方面へ6km、15分ほどで到着します。

鉄道では、JR中央東線・信濃境駅から南へ徒歩15分ほど下った、お天気がよければ、南東方面に富士山の優美な姿が望めるのどかな田園地帯にあります。

井戸尻考古館の開館は、1974年。以来、発掘調査や出土された縄文土器の図像学的研究から、井戸尻文化が雑穀農耕を営み、宗教観念を共有する一大縄文文化の中心であったことを発信し続けています。

さて、遺跡から発掘された石器の素材になった石庭を横目にアプローチを進み、井戸尻考古館入り口へ向かいましょう。
エントランスで靴を履き替えチケットを購入、お時間があれば、iPodの音声ガイダンスをお借りして解説を聞きながら展示をみるのもいいでしょう。

また、展示室入り口で上映されている3種類のHD(高精細)ムービーで井戸尻遺跡や井戸尻土器など井戸尻文化の概要を頭にいれておくのもいいかもしれません。

ムービーの背後には、復元された藤内期の住居が展示されています。 内部の様子もリアルに復元されていますので、縄文人の生活が垣間見られるかも。

館内の縄文土器の展示は壮観です。およそ年代順に展示されていますので、順を追って見ていきましょう。

井戸尻文化の主な器種は、深鉢・浅鉢・有孔鍔付土器に少数の鉢と椀が加わります。

円筒形の深鉢は煮炊きに用いられ、浅鉢は粉を練ってお団子やお餅を作ったり盛ったりしたとされています。お団子やお餅は日常の食べ物でなく祭日に神々や精霊にささげられたお供物。 有孔鍔付土器は、酒造器だったとか。

一方井戸尻文化の土器の中には単なる生活用具とは思われない優れた彫塑力をもった作品が存在します。
蛙や蛇、人の顔など具象的なものを表出しているのが特徴。

この文化を担った人々の世界観や宗教観、伝承神話が表されているとか。

筒型土器にはさまざまな意匠が見て取れますが、中でも神像筒型土器 藤内 (重要文化財)や半人半蛙文有孔鍔付土器(重要文化財)は必見です。

繊細な意匠で埋め尽くされた神像筒型土器には、円筒形の土器に抱きつくように神像もしくは人像が造形されています。

頭部は中空、髪は左右に束ね分けられ、肩から背中は逆三角形。 下半身の表現はありませんが、非常に力強い姿を想像させます。

当時の人々にとっての聖なる神の姿なのでしょうか?

一方半人半蛙文有孔鍔付土器に表現されているのは、蛙とも人ともつかない精霊像。大きく振り上げた両腕は三日月を暗示し、手首のあたりから下方に内側に巻くもうひとつの両腕は月の満ち欠けを暗示しているとか。

季節を司る精霊が表現されているのでしょうか?

さらに縄文中期の藤内期からは、香炉形土器が出現します。 最盛期の作品には、人面の付くものもあります。

曽利遺跡から出土された香炉型土器は、土器自体が女神の体内に見立てられ、 表は穏やかな表情の女性、裏は一転おどろおどろしいどくろのような形態。しかしそのダイナミックな造形に驚かされます。古事記や日本書記の火神誕生のストーリーに符合しているとも。

さらに珍しい土偶も展示されています。《蛇を戴く土偶》(重要文化財)は、正面はおそらく女性像。しかし頭の後ろにはとぐろを巻いたような蛇が造形されています。

そして、長野県宝に指定された曽利4号住居址から出土した土器7点の展示もあります。 そのうちの1点は1963年、パリで開催された「日本古美術展」に出展、1972年には、郵便はがきの料額印面のデザインになったので皆様もご存知かもしれませんね。

さて、井戸尻考古館では、土器だけでなく井戸尻遺跡群から発掘された多くの石器も展示され、縄文農耕論立証のベースを形作っています。

井戸尻考古館の展示は、一見地味な考古学のジャンルですが、その土器たちの芸術性から多くのインスピレーションを受け、想像力を刺激されるのではないでしょうか?

考古館の遺物を見学した後は、隣接して建つ考古館併設の富士見町歴史民俗資料館を見学するのもいいかも。

この地域の農業を中心とする生産用具、生活用具、武具、古文書等の展示を見ることができます。

富士見町歴史民俗資料館
http://www.alles.or.jp/~fujimi/rekimin.html

また、付近には復元家屋を含む 史跡・井戸尻遺跡や清らかな湧水を利用した植栽田を擁する史跡公園もありますので、緑豊かな景観や古代ハスなどの季節の水生、湿性の花々も楽しめます。

夏休みにご家族で避暑がてら、八ヶ岳・西南麓に展開された縄文文化を楽しみに井戸尻考古館へお出かけになりませんか?

悠久の古代ロマンとパワーを体感できることでしょう。









赤ちゃん連れのお母様へ:
井戸尻考古館は土足での入館はできません。
オムツ替えは、併設の歴史資料館のバリアフリートイレに オムツ替え用の台がありますので、そちらをご利用ください。





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また、このコーナーへのご意見・ご感想もお気軽にお寄せくださいね。
お待ちしております。




井戸尻考古館

復元された藤内期の住居

神像筒型土器 
藤内 高さ56cm(重要文化財)
井戸尻考古館蔵

半人半蛙文有孔鍔付土器
藤内 高さ51.7cm(重要文化財)
井戸尻考古館蔵

人面香炉形土器 
曽利 高さ47cm
井戸尻考古館蔵

水煙渦巻文深鉢 (写真中央)
  曽利  高さ43cm (長野県宝)
井戸尻考古館蔵
 

石器
井戸尻考古館蔵

富士見町歴史民俗資料館
 

史跡 井戸尻遺跡
   

古代ハス
     





施設情報

井戸尻考古館

住所:
長野県諏訪郡富士見町境7053  

TEL:0266−64−2044

詳しくは、直接お問い合わせいただくか、
井戸尻考古館をご覧ください。

*こちらの記事は井戸尻考古館より許諾をいただいております。
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©井戸尻考古館