アート&カルチャー


第126回 戸栗美術館
TOGURI MUSEUM OF ART
(東京都渋谷区)



残暑の中にも秋の気配を感じるころ。

夏休みシーズンも終わり、いつもの忙しい日常が戻ってきました。

今回は、そんな9月の日々をリフレッシュするおすすめの美術館をご紹介しましょう。

東京・渋谷の閑静な住宅街にひっそりとたたずむ陶磁器専門美術館、「戸栗美術館」です。

戸栗美術館
http://www.toguri-museum.or.jp

戸栗美術館は、創設者戸栗亨氏が長年にわたり蒐集された陶磁器を中心とする美術品を 永久的に保存し、広く公開することを目的として、1987年11月に渋谷区松濤の旧鍋島藩屋敷跡に開館しました。

収蔵品は、伊万里、鍋島などの肥前磁器および、中国・朝鮮などの東洋磁器を主体とする約7000点で構成され、 年4回の企画展を開催するなどの活動をしています。

現在開催されている企画展が「古伊万里唐草−暮らしのうつわ−展」(2016年9月22日[木・祝]まで)。 江戸の暮らしで使われた古伊万里唐草のうつわ約70点を展示する展覧会です。

取材してきましたので、早速ご紹介しましょう。

美術館へのアクセスは、渋谷駅ハチ公口より15分と便利!渋谷駅から東急百貨店・Bunkamuraを目指し、Bunkamuraの左手に沿って 進みさらに坂道を直進。大山稲荷神社を右に見て二つ目の角を左折さらに進むと右手に「戸栗美術館」の表示のある 褐色タイル貼りの建物が見えてきます。こちらが、戸栗美術館です。

エントランスを入り、右手の受付でチケットを購入、左手の優雅な階段を上がると2F展示室に到着です。

早速第1、第2展示室で開催されている「古伊万里唐草−暮らしのうつわ−展」を観ていきましょう。

現代の食卓を飾るうつわにもしばしば描かれている唐草文様。古くは中東を起源とし、 ナツメヤシやハスなどの植物文様が原形と言います。

中国・朝鮮半島を経て日本へ伝来して 以降、仏教装飾はもちろん、様々な工芸品にあらわされてきました。

17 世紀初頭に誕生した伊万里焼では初期から皿の縁に装飾文様として用いられたほか、 主文様としてうつわ全体に描かれたものもみられ、その意匠は花唐草・蛸唐草・みじん唐草へと展開していきます。

また、唐草は単なる装飾としての役割だけでなく、連続して繋がるさまに“子孫繁栄”や “長寿”などのイメージが重なり、 それ自体に吉祥の意味が付与され、“永遠に続く 幸福”を願う人々の思いを背景に、18 世紀以降、伊万里焼の定番の文様として 庶民の間にも広く受け入れられていきました。(プレスリリースより)

展示は「T.唐草のはじまり」、「U.古伊万里の唐草」、「V.永遠の蛸唐草」、 「W.暮らしのうつわ」、「X.将軍のうつわと町人のうつわ」と進みます。

まず冒頭を飾るのが、「染付 花唐草文 瓢形瓶」と「染付 蛸唐草唐花文 輪花皿」。 花唐草と蛸唐草を代表するような美しい2点の染付伊万里です。

しかし、なんといっても目を奪われるのが第1展示室入口正面に展示されている「染付 花唐草文 藤花形皿」。 白磁に花弁が浮き上がるように藤の花があらわされ、上部に染付で花唐草が描かれたチャーミングな優品!

花や葉の細部にも濃淡がつけられ蔓の線が丁寧に描かれた花唐草。 文様の中に6羽の小鳥が隠れているそうなので、探してみるのも楽しいでしょう。 器形、文様ともに魅力的な17世紀後半の伊万里焼です。

「U.古伊万里の唐草」では、伊万里焼の草創期からみられる唐草が、時を経るにつれ表現が変化していく様子が 見て取れる展示です。

17 世紀初頭の製品では、縁を飾る副次的な使用が大半ですが、やがて主題として全体にめぐらせたものも増え17世紀 中期には、菊や牡丹などの花を中心に据え、周りを唐草で繋いだ”花唐草”が多くみられるようになりました。

このころ中国から色絵技術が伝わり、唐草の表現に華やかでカラフルな色彩が加わります。 様々な花と蔓草を組み合わせた文様が縁をとりまく伊万里・古九谷様式の「色絵 鶴文 角皿」や 「色絵 布袋文 皿」が見ごたえあります。

絵付け技術が頂点を迎えた17世紀後半には、より細密に蔓をめぐらせ、花や葉をやわらかな染付の青の濃淡であらわした 繊細で優美な花唐草が完成しました。「染付 獅子花唐草文 長皿」などでその美しさを観ることができます。

18世紀に入ると、花唐草が伊万里焼の定番文様として多用されるようになり、その主役となったのが青一色の染付製品でした。

18世紀後半、西洋への輸出事業が衰退し、国内需要に向けた量産化が進むと花唐草から花が消え、19世紀には葉や蔓を簡略した ”みじん唐草”へと大きくシフト。「染付 みじん唐草松竹梅文 皿」などがその作例の一つです。

一方元禄年間以降の色絵製品では瑠璃色や萌黄色の地に金唐草をめぐらせたものがみられ、 特に赤地に金唐草は後世まで人気のデザインとなりました。

さて、次は第2展示室の「V.永遠の蛸唐草」に進みましょう。

古伊万里唐草のうち花唐草とは別の発展をした蛸唐草です。 蔓に突起状の葉を加えた文様が、蛸の足のようにみえることから、近代になって”蛸唐草”と呼ばれるようになったとか。

17世紀にはすでに出現していて、元禄年間ごろまでは輪郭線の中を丁寧に塗って描かれ、 やがて、線描きの表現へと変化します。18世紀には食器のほかに様々な生活道具が生まれ、その多くに蛸唐草が描かれました。

19世紀には、単調な細線で渦を巻いた蛸唐草の製品が量産されたことで、より幅広い層に普及していきました。

このコーナーでは17世紀中期の「色絵 花卉文 変形皿」が器形、色彩、文様など手が込み見ごたえがあります。 10 弁の花形にかたどった変形皿の中央、赤い円内に鮮やかな色絵で岩と植物を描き、 周囲は黄色の唐草文がめぐっています。裏面 は三方に赤い松葉を配し、高台内は染付圏線内に赤で 「福」銘が記されています。

一方、 全体を蛸唐草で装飾した「染付 蛸唐草文 手焙(てあぶり)」や「染付 蛸唐草文 引手」ような珍しい展示品もあります。 手焙は、木瓜型に開けた窓から、炭を入れて用いる暖房具。器形、文様ともに斬新だったのでは?引手も、襖をひきたたせたことでしょう。

蛸唐草には「染付 白抜蛸唐草文 蓋付碗」や 「染付 蛸唐草松竹梅文 皿」などの食器をはじめ 生活道具が目立ちます。

蛸唐草の文様としての使い勝手の良さが暮らしのうつわに多くとりいれられた理由のひとつかもしれません。

また、蛸唐草にも変遷があり、輪郭線を書いて中を塗るタイプに始まり、 18世紀前半には白抜きタイプや濃を塗り分けたものが登場し、18世紀後半には蔓と葉を二本の線で描くようになり、 19世紀前半には蔓を細い一本で描くようになり渦の回転数が増え、葉は歯車状となるなどのバリエーションが 興味深いです。

さて次は「W.暮らしのうつわ」です。

17世紀における伊万里焼の使用は、大名など特権階級にかぎられましたが、18・19世紀には安定した経済のもと豪商などと呼ばれる 裕福な町人が消費者に加わります。

19世紀に入ると、江戸に多くの料理屋が開かれ、伊万里焼などの磁器が使われました。、墨田川の花火見物で、唐草の大皿に御簾をしき刺身を盛った様子が浮世絵 に描かれています。このコーナーではその浮世絵(複製)とともに唐草が描かれた皿、鉢、碗、蕎麦猪口などが展示されています。

最後の「X 将軍のうつわと町人のうつわ」では、江戸時代、伊万里焼の唐草文様が多様に展開したのに平行して産地の有田のある 佐賀鍋島藩で、将軍家への献上品として製造されていた鍋島焼が展示されています。

伊万里焼では、花唐草や蛸唐草が装飾文様の主役になったのに対して、鍋島焼では、一部に取り入れる、唐花に添える、また裏文様として 描かれています。

伊万里焼とは異なり、「色絵 小手毬文 皿」など精緻で端正、上品で優美な作品が展示されています。

「古伊万里唐草−暮らしのうつわ−展」を堪能したら、第3展示室の「磁器生誕から100年の変遷」展に向かいましょう。

この展示室では、日本で初めて佐賀県有田地域で磁器が焼成された17世紀から100年を年代順に その様式の特徴に沿って紹介しています。

展示は、左から「初期伊万里」、「古九谷様式」、「柿右衛門様式」、「古伊万里金襴手様式」、中央に「鍋島焼」と 順に優品が並べられています。初期伊万里の「染付 山水文 鉢」や古九谷様式の「色絵 葡萄文 瓜形壺」などの 名品の数々で100年の変遷を通観できるまたとない機会です。お見逃しなく!

また、お時間があれば、特別展示室で開催されている「伊万里焼の流通」に関する展示にも目を通されては? 佐賀鍋島藩内の有田皿山で焼成されたやきものが伊万里へと運ばれ、その港から出荷されたため、”伊万里焼”と 呼ばれたやきものが日本各地で、また、17世紀後半からは、オランダ東インド会社や唐船を通じて 世界各地で流通した詳細が紹介されています。

たっぷり「古伊万里唐草−暮らしのうつわ−展」(2016年9月22日(木・祝)まで)を堪能したら、 1Fのラウンジで緑の庭園をながめながら、ホット一息くつろぐのもいいかもしれません。

また、受付に隣接するミュージアムショップには、収蔵品図録や展覧会関連書籍、ミュージアムグッズなどが取り揃えられています。

9月の一日戸栗美術館で「古伊万里唐草−暮らしのうつわ−展」(2016年9月22日[木・祝]まで)を楽しんでみませんか?

現代の食卓を飾るうつわにも活きる唐草文様のルーツをたどり、より深くやきものを楽しむことができるようになるかもしれません。

都心の美術館で美しいやきものたちにかこまれ、素敵なリフレッシュタイムを過ごすことができることでしょう。









【赤ちゃん連れのお母様へ】
「戸栗美術館」にベビーカーでお越しの際はベビーカーは受付にお預けください。
館内には階段がありますので、抱っこひもなどをご用意いただくのが便利かもしれません。





このコーナーでは、お子様連れで楽しめる皆さまお気に入りの ミュージアム情報を募集しています。 お問い合わせフォームから、是非お寄せください。
また、このコーナーへのご意見・ご感想もお気軽にお寄せくださいね。 お待ちしております。




戸栗美術館

第1展示室風景


色絵 花卉文 変形皿
伊万里(古九谷様式)
江戸時代(17世紀中期)
口径16.1cm
戸栗美術館所蔵


染付 花唐草文 藤花形皿
伊万里
江戸時代(17世紀後半)
口径29.7×15.2cm
戸栗美術館所蔵


染付 蛸唐草文 手焙
伊万里
江戸時代(18世紀前半)
高20.8cm
戸栗美術館所蔵


染付 白抜蛸唐草文 蓋付碗
伊万里
江戸時代(18世紀)
通高7.5cm
戸栗美術館所蔵


染付 蛸唐草松竹梅文 皿
伊万里
江戸時代(19世紀前半)
口径33.5cm
戸栗美術館所蔵


第3展示室風景

色絵 葡萄文 瓜形壺
伊万里(古九谷様式)
江戸時代(17世紀中期)
高21.2p
戸栗美術館所蔵

ラウンジ







施設情報

公益財団法人 戸栗美術館
 
  

住所:東京都渋谷区松濤1−11−3

TEL:03-3465-0070
  

開館時間:午前10時〜午後5時(入館は午後4時半まで)

休館日:
・毎週月曜日(月・祝の場合開館、翌日休館)
・展示替え期間中 ・年末年始

入館料:
一般:1000円 / 高校・大学生:700円
小・中学生:400円

詳しくは、直接お問い合わせいただくか、
戸栗美術館 をご覧ください。

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戸栗美術館
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