アート&カルチャー


第89回 尖石縄文考古館
TOGARIISHI MUSEUM OF JOMON ARCHAEOLOGY
(長野県茅野市)

今年の夏は、とりわけ暑さが厳しいですね。
夏休みもピークの8月は、涼しく心地よい高原で古代のロマンにひたり、日本の美の起源を探るというのはいかがでしょう。

今回は、皆様にもきっと見覚えのある、わが国最初の縄文時代の国宝「土偶」(縄文のビーナス)を収蔵・展示している長野県茅野市の尖石縄文考古館をご紹介しましょう。

尖石縄文考古館
http://www.city.chino.lg.jp/www/togariishi/index.html

尖石縄文考古館は、八ヶ岳山麓の美しく豊かな自然を舞台に今から約5000年前に繁栄した縄文文化を代表する尖石遺跡の出土品や、国宝「土偶」(縄文のビーナス)、重要文化財「土偶」(仮面の女神)をはじめ八ヶ岳山麓の縄文遺跡から発掘された2000点余りの貴重な考古資料を展示するミュージアムです。
 
尖石遺跡を中心に縄文時代の生活が体感できる緑豊かな尖石史跡公園のセンターに位置しています。
 
八ヶ岳山麓の海抜1000メートル前後の広大な裾野は、豊富な湧水に恵まれ、ナラ、クルミ、クリなどの落葉広葉樹が繁茂し、多様な動物が生息していました。
 
近くの八ヶ岳や霧が峰には、石器の材料になる黒曜石が豊富で、縄文人が生活しやすい環境が整っていました。
 
従って山麓一帯には、大小さまざまな遺跡が散在し、多くの縄文遺跡や遺物が発掘されています。
 
尖石遺跡はその中でも中心的な存在で、縄文の住居跡や集落の研究の拠点となり、昭和27年に特に学術的価値が高い遺跡として国特別史跡に指定されました。
 
八ヶ岳山麓の縄文遺跡の発掘の立役者となったのが、地元諏訪の小学校の教員をつとめながら考古学の研究を精力的に続け、尖石縄文考古館の初代館長をつとめた宮坂英弌氏です。

戦前から八ヶ岳山麓の縄文遺跡の発掘をはじめ、尖石遺跡と与助尾根遺跡の発掘により日本ではじめて縄文集落の全容を明らかにし、縄文集落研究の原点となる成果をもたらしました。
 
それら八ヶ岳山麓の縄文遺跡の発掘の成果を展示している尖石縄文考古館に出かけてきましたので、早速ご紹介しましょう。
 
東京からの車でのアクセスは、中央自動車道諏訪南ICで降り、八ヶ岳ズームラインを経てエコーラインを使うのが便利。エコーラインの尖石縄文考古館西の交差点を右折、道なりに進むとほどなく左側に木立に囲まれた考古館が見えてきます。(電車ではJR中央線で茅野駅下車、茅野駅より諏訪バス 渋の湯行き約20分「尖石縄文考古館前」バス停下車)
 
パーキングに車を止め、アプローチを進み玄関を入ると明るく開放的なエントランスロビーに出ます。
 
自販機でチケットを購入し受付を通り早速展示に進みましょう。
 
まずは、ロビー中央にある八ヶ岳山麓の縄文遺跡の概要と遺跡の地図を見てみましょう。おびただしい数の遺跡に驚くでしょう。
 
また、左手のガイダンスルームで、考古館や史跡公園の案内、国宝「土偶」(縄文のビーナス)に関する映像番組を視聴して予備知識をつけておくのもいいかもしれません。
 
展示室Aでは、日本で初めて縄文時代のムラが発掘された縄文時代中期の遺跡である尖石遺跡と与助尾根遺跡、また、発掘を行った茅野市名誉市民宮坂英弌氏の研究業績が紹介されています。
 
さて、尖石遺跡の名前の由来となった尖石とはなんでしょう。それは、遺跡の南斜面にある高さ1m余りの三角錘状の巨石で、「とがりいし」と呼ばれ、縄文人が石器を研いだ石ともいわれています。
 
尖石遺跡の出土品としては「蛇体把手付深鉢」が必見! 土器の縁に、口を開いた蛇体が塑像装飾され、器の側面に縄文が付けられた、高さ19,5cmの深形土器で、完全な形で発掘された尖石を代表するユニークな縄文中期の土器です。

展示室Bでは、いよいよ「縄文のビーナス」に対面することができます。棚畑遺跡から出土した、八ヶ岳山麓の縄文時代中期の土偶の特徴を持つなんとも愛らしい土偶です。

集落の中央広場の小さな穴から、完全な形のまま埋納された状態で出土しました。 主な骨格は粘土で組み立てられ、良質な粘土で肉付けされているとか。

ハート型にも見える小さな顔、横に広げた腕、妊娠を表す腹部、大きく安定感のある腰と尻、太い足でしっかりと立つ、優しくもたくましい姿が印象的!

表面はよく磨かれて光沢を放ち雲母が部分的に輝いています。

造形的にも優れていて、発掘状態が明らかであるなどから平成7年に国宝に指定されました。

正面、横、後ろ、どの角度から見ても魅力的。頭部の装飾など細かい点も含め見飽きることのない土偶です。

さて、「縄文のビーナス」の右手には、変わった造形の土偶が展示されています。 中ッ原遺跡から出土した、縄文時代後期の仮面表現を持つ「仮面の女神」と呼ばれている土偶です。

丁寧につけられた文様、逆三角形の仮面を被ったような顔面、張り出した腹部、太く大きな足が特徴。墓と考えられる穴から副葬された状態で出土した数少ない土偶で、平成18年に重要文化財に指定されました。

こちらの土偶は、輪積みによる制作技法で作られ内部は空洞。表面は光沢がでるほどよく磨かれ、黒くいぶして焼かれています。

これら魅力的な2体の土偶は、いったいなんのために作られたのか? 謎に満ちた造形に想像はふくらみます。

そして、およそ5000年もの昔の縄文の美に感動するでしょう。

展示室Cでは、土器や土偶、黒曜石で作られた石器など、今から5000年前から4000年前に八ヶ岳山麓に栄えた縄文文化の多彩な遺物が展示されています。

特に動物などさまざまな装飾が施された土器は見所。土器の縁に装飾されたかわいいイノシシの子供の装飾にはお子様も興味津々!

さて、展示室Dは、縄文時代の衣食住や四季折々の暮らしぶりについて模型や映像、体験学習を通じて体感するコーナーです。

縄文人のファッションが紹介されているコーナーでは、縄文人の衣服を試着することもできます。

次の学習コーナーでは、粘土を使って、縄文土器や土笛などを作る「縄文体験」が人気!(材料費など有料。)オリジナルの作品ができるかも。

また、図書コーナーには、関連図書をはじめ、お子様向けの学習マンガも揃っています。

特別展示室では、茅野市尖石縄文考古館平成25年度特別展として、2013年11月24日(日)まで、「中ッ原遺跡が語る八ヶ岳山麓縄文文化の変化」と題し、中ッ原遺跡を手がかりに、 縄文時代中期から縄文時代後期にかけて八ヶ岳山麓に展開した縄文文化の変化を追いかける企画展が開催中。

さて、土器や土偶など遺跡からの出土品など考古資料を見たり、体験学習を楽しんだら遺跡公園の緑のフィールドに展示されている与助尾根遺跡の復元住居を見に行きましょう。

与助尾根遺跡は、宮坂英弌氏によって昭和21年から27年にかけて縄文時代中期の竪穴住居址28箇所が発掘された遺跡です。

このうち6棟が復元住居となって展示されています。集落の南側には、縄文人の水場であったとみられる湧水があったり、復元住居の周辺には、ナラ、クリなどの実 をつける落葉広葉樹の森が広がり、縄文人の暮らしが体感できる場となっています。

この緑地ではピクニックができますので、縄文人の暮らしを想像しながらランチするのも楽しいかもしれません。

考古館エントランスを入って右手には、ミュージアムショップと喫茶室があります。

ショップでは、尖石縄文考古館関連書籍やオリジナルグッズが取り揃えられています。

また、喫茶室で、ケーキや各種飲み物でホット一息つくのもいいかもしれません。

夏休みの一日長野県茅野市の尖石縄文考古館で今から約5000年前に八ヶ岳山麓に花開いた縄文文化を楽しんでみませんか?

縄文を日本美術史に加えた芸術家の岡本太郎ならずとも、ユニークな土偶や土器の造形から私たちの美意識の原点を探ることができるかもしれません。

「かわいい」の起源は5000年前にあったなんて感じるかも。考古館は古くて新しい知のワンダーランドですね。

お子様の夏休みの宿題にも役に立つことでしょう。





赤ちゃん連れのお母様へ:
尖石縄文考古館はベビーカーで入館できます。
オムツ替えは、バリアフリートイレが利用できます。





このコーナーでは、お子様連れで楽しめる皆さまお気に入りの ミュージアム情報を募集しています。 お問い合わせフォームから、是非お寄せください。
また、このコーナーへのご意見・ご感想もお気軽にお寄せくださいね。
お待ちしております。




尖石縄文考古館 

尖石縄文考古館 

エントランスロビー

尖石遺跡出土「蛇体把手付深鉢 」


国宝「土偶」(縄文のビーナス)

重要文化財「土偶」(仮面の女神)

展示室C
 

展示室D体験コーナー  

学習コーナー  

史跡公園 復元住居  

ミュージアムショップ・喫茶室






施設情報

茅野市尖石縄文考古館

住所: 長野県茅野市豊平4734−132

TEL:0266−76−2270

開館時間:9:00〜17:00 
※毎週金曜日は20:00まで
※入館は閉館の30分前まで

休館日:毎週月曜日(休日の場合を除く)年末年始(12月28日〜1月3日) 休日の翌日(この日が休日、土・日の場合は除く)

詳しくは、直接お問い合わせいただくか、
尖石縄文考古館をご覧ください。

*掲載許諾・取材協力:尖石縄文考古館  
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