アート&カルチャー


第127回 菊池寛実記念 智美術館
 Musée Tomo
(東京都港区)



都心にも涼やかな風が吹き、街の装いも秋色に染まり始めました。 芸術の秋の到来を予感させる風景です。

9月のアート&カルチャーでは「古伊万里唐草−暮らしのうつわ−展」と題し、 生活の器として馴染み深い古伊万里唐草のうつわの諸相を展示する戸栗美術館をご紹介しましたが、 今回は趣向を変えて、やきものの中でも近現代の陶芸作家の作品を紹介する 「菊池寛実記念 智美術館」(きくちかんじつきねん ともびじゅつかん)を ご紹介しましょう。

菊池寛実記念 智美術館
http://www.musee-tomo.or.jp/

「菊池寛実記念 智美術館」は、現代陶芸のコレクターであった菊池智(1923−2016)氏が長年にわたり蒐集してこられた 現代陶芸のコレクションを一般に公開し、関連事業による現代陶芸の普及、および陶芸作家や研究者の育成を 目的とし、2003年4月に東京都港区虎ノ門の高台に開館しました。

美術館はホテル・オークラ至近の地に建つ西久保ビルの地下1階にあります。

敷地内には、美術館とレストランがはいるビル、大正時代に建てられた西洋館(国の登録文化財)、 智氏の父でありこの地を拠点として活動した実業家・菊池寛実氏ゆかりの持仏堂が 百年の歴史のある日本庭園を囲み、都心の喧騒を忘れるかのように静かに佇んでいます。

菊池コレクションは、菊池智氏が約半世紀にわたって蒐集してこられた現代陶芸のコレクションです。 菊池智氏の土と炎からうみだされるやきものへの愛好から始まった現代陶芸の蒐集は、その魅力を広めたいという情熱となり、 1983年には、米国スミソニアン博物館における日本の現代陶芸を紹介する米国初の本格的な展覧会開催へと至りました。

そのコレクションは、富本憲吉(1886〜1963)、八木一夫(1918〜1979)、加守田章二(1933〜1983)、藤本能道(1919〜1992)、 鈴木藏(1934〜)、栗木達介(1943〜2013)など、現代陶芸の流れをたどる上で欠かせないといわれる作家たちの作品を中心に構成されています。

伝統的な器から革新性に富む造形的なオブジェまで幅広いジャンルで、多彩な作品が収蔵されています。 ことに藤本能道の作品のコレクションは、質、量ともに随一だとか。

これらのコレクションを中心に、年間3〜4回の企画展が開催されています。

現在開催されている企画展が、「The Power of Colors―色彩のちから」展(2016年12月4日[日]まで)。 菊池コレクションの誇る陶芸作品の中から「色彩のちから」をテーマに陶芸家およそ36人、55点の作品を展覧する 企画展です。

取材してきましたので、早速ご紹介しましょう。

智美術館へのアクセスは、東京メトロ日比谷線神谷町が便利。神谷町駅出口4bからホテル・オークラ方面に進み ホテルオークラ別館前を右折、道なりに進み三叉路を右折し、少し下ると右手に美術館の表示が出ています。

門を抜け、西洋館を右手に見て、西久保ビル正面玄関に進みましょう。鋳金作家・北村真一氏デザインの玄関を入ると目の前に 「ある女主人の肖像」と題する美術家・篠田桃紅氏の作品がこの館の女主人を象徴するかのように 静かに出迎えてくれます。

左手の受付でチケットを購入し、早速B1Fの展示室に向かいましょう。

B1Fの展示室へ続く螺旋階段の壁には、もう一点篠田桃紅氏のコラージュ作品が展示されています。 天窓から降り注ぐ光の下、ガラス作家、横山尚人氏によるキラキラと輝く透明ガラスの手摺とあいまって、 洗練されたアーティスティックな空間を形作っています。(エレベーターも有り)

さて、「The Power of Colors―色彩のちから」展の冒頭を飾る作品は、加藤委氏の「Freeze Flame」。 翼をイメージするような青白磁のエッジの効いたオブジェ。

「フリーズ・フレーム」は作家の心象風景なのでしょうか?

青白磁の清らかで透明感のある色、斬新な造形は、様々なイメージをかきたててくれるでしょう。

続く展示は、白から一転、カラフルな三代徳田八十吉による大型作品「耀彩花器〈希望〉」です。 人間国宝、九谷焼作家、三代徳田八十吉は、従来の九谷焼のように白生地の上に上絵付で文様を表現するのではなく、 色釉を塗り分けて作品を仕上げる彩釉という技法を生み出したことで知られた陶芸家です。その作品は華麗にしてモダン! 今回の展示は特別出品ですのでお見逃しなく!

展示デザイナー、リチャード・モリナロリ氏デザインの展示ケースのない独特の趣ある展示室に入ると、赤・白・黒・緑・青を基調とした作品、 そして色絵作品がまるで、舞台上でスポットライトをあびる演者のように順に登場してきます。

素材や制作法による色のあらわれ方に着目しながら、作品を色調ごとに並べてみることができるのも興味深いです。

赤のコーナーでは、五代伊藤赤水氏による赤褐色の土膚を生かした焼締陶「無名異壺」、鈴木蔵氏のどっしりと存在感のある 「志野茶碗」、辻清明のユニークな緋色の「信楽帽子・信楽ステッキ」に目が止まります。

そして、建造物をテーマにした川崎毅氏の白いオブジェ「街(家の上の家)」のオリジナリティ豊かなフォルムに足が止まるでしょう。

また、石黒宗麿の緑の発色が素晴らしい「緑釉壺」や緑釉の下に金箔によって文様をあらわした釉裏金彩磁器で知られた女流作陶家、小野 珀子による「釉裏金彩花壺」の鮮やかな緑色に感嘆!

続いて、小池頌子氏の「水のかたち」に心惹かれます。のびやかに波打つ器の中央に集まる青い釉薬がまるで水たまりに映る青い空のように 光る清々しい作品です。

そして展示室中央辺りに再び三代徳田八十吉の作品が登場。「燿彩鉢〈黎明〉」は、青・緑・黄などの色釉を丹念に塗り分けて、 器表に加飾する彩釉の技が見事な作家の代表作のひとつ。鮮やかな色彩のグラデーションがスポットライトを浴びて輝いています。

さて、次の色絵磁器のコーナーの冒頭には、十三代今泉今右衛門の「色鍋島薄墨むらさき露草文鉢」が展示されています。 鍋島焼の伝統技術を踏まえつつイノベーティブに創作し、色絵磁器で人間国宝の認定を受けた作陶家の作品です。

薄墨(うすずみ)技法の素地に露草がいきいきと躍る現代的意匠に注目です!

また十四代酒井田柿右衛門による乳白色の白磁の上に、華麗な紅葉を装飾した「濁手紅葉文花瓶」や 北大路魯山人の「赤絵貝形向付」なども展示されています。

さて、最後を飾るのが、智美術館が随一と誇る藤本能道による色絵の作品群です。

藤本能道は現代日本陶芸界において、色絵磁器のクリエイティビティに最も貢献した作陶家の一人として知られています。 東京芸術大学で教鞭をとり、教授から学長にも就任しました。また、色絵磁器で人間国宝にも認定された巨匠です。

釉描加彩という手法を駆使し、本焼の時点から釉彩で模様の大半を描き、上絵付けで最後の仕上げをすることにより、 モチーフの周りに背景となる景色が出現し、磁胎から上絵付けまでが一体となった絵画的な色絵を作りだす手法を開発されたとか。

「霜白釉釉描色絵金彩花と虫図六角大筥」 は、晩年の傑作の一つで、背景の牡丹の花とフォーカスした虫を一体化して絵画的に表現した 印象的な作品です。

その他の藤本作品も白磁の素地の上に主に花鳥をテーマとした絵画的な作品が多く展示されていて見ごたえがあります。

さて藤本能道の陶芸世界を堪能したら、別室に展開する深見陶治氏の「蒼き狼」と六田知宏氏の写真「那智の瀧(M- 01 )」の 展示に移動しましょう。

深見陶治氏の青白磁による鋭利なナイフのようなフォルムのオブジェは、シンプルでシャープ! 特別出品の六田知宏氏の写真は、モノクロの 鋭い水しぶきがあがる豪快な那智の滝の写真です。

作品はもちろん両者が呼応して創る凛とした展示空間も楽しむことができるでしょう。

B1Fの展示室エントランス部分には、十二代三輪休雪氏による「王と王妃のカップ」や富本憲吉の「金銀彩角盒」も展示されていますので、 お見逃しなく!

陶芸作品にフォーカスしてデザインされた空間で、「色彩のちから」をテーマとして展示された素晴らしい陶芸作品たちをゆっくり鑑賞したら、 1Fのミュージアムショップに立ち寄るのもいいかもしれません。

ミュージアムショップには、展覧会関連書籍やミュージアムグッズが取り揃えられています。

また、ホット一息入れたいときはフランス語で天の川を意味するフレンチ・レストラン「ヴォワ・ラクテ」で、 日本庭園を眺めながらティーやランチを楽しむのもおすすめです。

芸術の秋、東京虎ノ門の閑静な一角にたたずむ「菊池寛実記念 智美術館」で 「The Power of Colors―色彩のちから」展を楽しんでみませんか?(2016年12月4日[日]まで)

洗練された美意識でトータルにコーディネイトされた稀有な美術館で、作品と向き合い 感性や知性を刺激され充実した時間を過ごすことができるでしょう。

また、現代陶芸を観る目が磨かれ、極上のリフレッシュタイムを過ごすことができることでしょう。









【赤ちゃん連れのお母様へ】
「菊池寛実記念 智美術館」にはベビーカーで入館できます。
館内にはエレベーターがあります。





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菊池寛実記念 智美術館


菊池寛実記念 智美術館


篠田 桃紅 「ある女主人の肖像」

加藤 委 「Freeze Flame」
1993年 58.5×29.0p
(撮影:尾見重治、大塚敏幸)

展示室風景

石黒 宗麿 「緑釉壺」
1950-52 年頃  高 22.7p
(撮影:小林庸浩 )

三代 徳田 八十吉(正彦)「燿彩鉢〈黎明〉」
1986年  径45.6p
(撮影:尾見重治、大塚敏幸)

展示室風景

藤本 能道
「霜白釉釉描色絵金彩花と虫図六角大筥」
1990年 32.0×36.6p
(撮影:尾見重治、大塚敏幸)

フレンチレストラン 「ヴォワ・ラクテ」




施設情報

菊池寛実記念 智美術館
(公益財団法人菊池美術財団)
  

住所: 東京都港区虎ノ門 4-1-35 西久保ビル

TEL:03-5733-5131(代表)
  

開館時間:火〜日・祝日 11:00〜18:00(入館は17:30まで)

休館日:
・毎週月曜日(月・祝の場合開館、翌日休館)
・展示替え期間中
・年末年始
・フレンチレストラン 「ヴォワ・ラクテ」 
[営業時間] 11:30〜22:00  [定休日]月曜日(祝日の場合は営業、翌平日休業)


入館料:
企画展によって異なります。美術館HPをご確認ください。

詳しくは、直接お問い合わせいただくか、
菊池寛実記念 智美術館 をご覧ください。

*取材協力・掲載許諾:
菊池寛実記念 智美術館
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