第9回 サン・ジェルマン・デ・プレ教会(L'eglise Saint-Germain-des-Pres)〜オデオン(Odeon)界隈



”Flânerie ”(そぞろ歩き)第9回目は、前回に引き続き、パリ左岸6区のサン・ジェルマン・デ・プレ教会からカルチェラタン界隈まで歩きます。この界隈は、パリ左岸の中世から現代までいろいろな側面が顔を出し、しかもちょっと知的で洗練された雰囲気のあるエリア。変化のある漫ろ歩きが楽しめます。

サンジェルマン・デ・プレ界隈のシンボルとなっているサン・ジェルマン・デ・プレ教会は、こじんまりとしたパリ最古のロマネスク様式の教会です。

サン・ジェルマン・デ・プレ教会
http://www.eglise-sgp.org/



その歴史は古く、542年にフランク王、キルデベルトT世(ChildebertT)がスペインから携えてきた遺物を収容するために建立した修道院に遡ります。

その後変遷を繰り返し、8世紀には、ベネディクト修道会の大修道院として巨大な勢力を誇りましたが、9世紀にパリに攻めて来たノルマン人によって大部分が損壊されてしまいます。

そして、11世紀からの大規模工事によって再建されたものの、 革命時には火災で焼失し、多数の修道師が虐殺され、修道院は廃止。19世紀に入ってようやく再度の大規模修復が行われて今日に至ります。

今でこそ静かでこじんまりとした教会ですが、 その歴史は波乱万丈。紆余曲折を経て今日があると思うと感慨深いですね。



サン・ジェルマン・デ・プレ界隈は、現在は、ショッピングやグルメ巡りが主流のようですが、かつては知識人や芸術家たちの集まる場としてフランス文化の先端を担っていました。

その中心がCafe Deux Magots(カフェドゥ・マゴ)やCafe flore(カフェ フロール)。

Cafe Deux Magots(カフェドゥ・マゴ)
http://www.lesdeuxmagots.fr/

Cafe flore(カフェ フロール)
http://www.cafedeflore.fr/

これらのカフェには、戦後、実存主義を提唱したサルトル(Jean-Paul Sartre)やボーヴォワール(Simone de Beauvoir)をはじめ、哲学者や文学者、またピカソなどのアーティストも集まりました。

街角にたっている現代美術家、ジャン・ティンゲリー(Jean Tinguely、1925年5月22日 −1991年8月30日)のパブリックアートもなんとなくしっくりと街に溶け込んでいますね。

スイスの現代美術家、ティンゲリーは、廃物を利用した彫刻、キネティック・アート(動く美術作品)で知られています。また、ダダイスムの影響を強く受け、妻のニキ・ド・サンファル(Niki de Saint Phalle)と共に、ヌーヴォー・レアリスムのメンバーの一人でもありました。パリ4区のポンピドゥーセンター前の噴水にご夫妻の彫刻が展示されています。

その昔、哲学者や芸術家などの文化人が集った拠点のカフェは、今はビオ・カフェ、ビオ・レストランに移っているのでしょうか?

下の写真は、高品質の食材が揃っていることで有名なこだわりのBIOカフェ、ダ・ローザ(da Rosa)。食品の購入もイートインもできます。

da Rosa
http://www.darosa.fr/

いずれにしても、この街には、依然としてエッジのきいた文化の香りがするような・・・。



さて、そぞろ歩きはオデオン方面に向かいます。といってもお目あてはオデオン座ではなく、サンジェルマン大通りからサン・タンドレ・デ・ザール(Rue Saint Andre des Arts)までそっと続く秘密の小道。コメルス・サン・タンドレ小路(Cour du Commerce Saint-Andre)。



1776年に造られたこの小道は、テニスコートの前身、ジュドポーム場だったとか。それで庭(cour)を意味する言葉が残っているのかもしれません。



一部がアーケードになっている古い石畳の両側には個性的なお店が続きます。



この文具店では、手作り感のあるカードやノート、ペンなど さまざまなステーショナリーを扱っています。



そしてひときわ古風な佇まいの建物が、1686年創業のパリ、いえ世界最古の カフェ、ル・プロコープ( Le Procope)。

Restaurant Le Procope
http://www.procope.com/

正面玄関は大通りに面しているので、ここは裏側なのですが、 創業当時の面影を残しているのがこちら側かも。



ル・プロコープの創業者はイタリア人のフランチェスコ・プロコピオ・デイ・コルテッリ(Francesco Procopio Dei Coltelli)。

内外装とも17、8世紀からナポレオン時代の雰囲気を色濃く残しています。

ヴォルテール(Voltaire)、ディドロ( Diderot )、ルソー(Rousseau)、 ヴォーマルシェ(Beaumarchais)、 バルザック(Balzac)、ユーゴ(Hugo) など当時の急進的思想家や文学者が足しげく通ってきていたとか。

革命時にはロベスピエール、その後はナポレオンも訪れた記録があるそうです。 まさしく17世紀から19世紀までのフランスの激動の歴史を見てきたカフェといっても良いでしょう。



サン・ジェルマン・デ・プレからオデオンまでのそぞろ歩きで、奇しくもフランス文化を牽引するのに一役かったのではと思えるようなカフェを辿ることになりました。

カフェと文化には深い因縁があるのかもしれませんね。

次回はさらに文化の中心地区を歩きます。お楽しみに!