特集: 極東ロシアの小さな村

第6回 東洋のアマゾンへ

クラスニヤール村を初めて訪れた2月は氷に覆われていたビキン川ですが、 9月晩秋にはその堂々と流れる水の豊富さに圧倒されました。

私がそれまでに見てきた川のどれとも違う何かがあるのです。



今回は、その堂々たる流れを5時間、モーターボートでさかのぼるという私にとっては 前人未到のアドベンチャーを思い返してみます。



冬の間、スノーモービルに乗って森を駆け回っていた猟師たちの夏の乗り物は 幅が120センチ、長さ5メートルほどのモーターボートです。

村の船着場から私たちツーリストは規則として救命胴衣をつけての乗船になります。

お天気はあいにくの曇り空、ガイドさんはきちんと説明をしてくれているし、 旅の概要を書いた冊子にも長いボートの旅と猟師の小屋に滞在の注意事項が書いてあるのですが、 本当になじみのない場所での初体験というのは、想像力では予測不可能なもの。

何が危険なのか何が見どころなのかも良く分からないまま、 そこはもう運を天に任せる覚悟でワクワク楽しもうではありませんか!と腹をくくって 2泊3日のエクスカーションに出発です。

腹をくくる、とはいっても日々命に向き合うタイガの猟師の船頭ですから、 心地の良い安心感があります。



アムール川の支流とはいえ、日本の河川とは比べ物にならない川幅のビキン川ですが、 流れの速い場所や、浅瀬、巨大な流木がゴロゴロの溜まっている場所など刻一刻と表情が変わります。

船頭をとる村の猟師はポーカーフェイスでその状況を瞬時に読み取り、 まるで自分の庭のように自由自在に安全に進むのです。





5時間ものボートの旅、幸いなことに?天候が不安定で雨が降ったり、止んだり、途中はドシャブリ、 その間に大きな空に次々と浮かぶ雲や時折差し込む太陽の光、 両岸の森を見ているうちに結構速く時間が進んでしまうものです。

途中、河畔の木に登っていたツキノワグマが私たちのボートの音に驚いて大急ぎで木から降りていく 様子が見えたり、時折ほかの猟師の船とすれ違ったり、釣り客のキャンプが見えたり、 川は意外にも賑やか。

実はビキン川の流域はロシア男憧れの釣りのメッカ、 ロシアリッチのおじ様たちが5〜6人のグループで気ままな釣り道楽を楽しんでいる姿を 良く見かけます。プーチン大統領もこのあたりに釣に来たこともあるそうですよ。



猟師達は広大な森の中にそれぞれにバーサ(英語のBase 基地)と呼ばれる 猟師小屋を持っています。

私たちが目指すのはその一つでツーリストも泊まれるように作られた 「ウリマ基地!」です。

メインの宿泊施設となる2階建ての小屋と小さめの小屋一つずつ、 食事をする時の東屋、屋根付きの調理場、高床式の物置き小屋2つで構成されています。

9月とは言え気温はすっかり冬、時には雨の降る中を5時間ほど川の上にいたのですから すっかり身体は冷え切ってしまって、メインの小屋のストーブに火がともった時には さすがにホッとしました。 

服を着替えたり自分の寝床にマットや寝袋をセットしている間に、 猟師とまかないのために同行してくれたタチアナさんが空かさずお茶を入れてくれます。 



このころには成田からご一緒した旅の仲間たちもすっかり打ち解けて、 ふと東京から遠く離れたロシアの森林のど真ん中に来ていることすら忘れてしまいそうに アットホームな雰囲気が生まれていたのですが、そこは東洋のアマゾン! 振り返ればビキン川越しにある山の稜線上に燃えるような美しい夕日が落ちていくのが見えます。

赤、オレンジ、ピンク、紫、青…空と森と水面が刻々と色を変えていく姿は 思わず写真に撮ってしまうのですがどうしてもその臨場感が捉えられずに 目が何度もカメラの液晶画面と実際のスペクタクルを行ったり来たりします。

川縁の湿った少しだけ生暖かい空気、水のにおい、さらさらと流れるビキン川の声 (ビキンの猟師はこう言います)ダイナミックでありながらとてもニュートラル で優しいウリマの夕暮れでした。



すっかり陽が暮れると自家発電の電力で小屋と食事をする東屋に明かりが灯ります。

文明社会では思わぬ問題も引き起こしている電力、その電力の洪水の中で暮らしている わたしにとって、タイガの森の中の1点の電球の明かりは実に頼もしく温かいものでした。

そして消灯時に自家発電を止める前に携帯電話やデジカメの充電を忘れてはならないのも 「東洋のアマゾン」紀行の現状です。








【作者プロフィール】
相馬万里子
Hawaiian art and craft
mele mahina オーナー

Natural Solution 代表
デトックストレーナー

米国ISFN 日本ニュートリション協会認定
サプリメントアドバイザー