My Favorite Travels And Places
(私の好きな旅と場所)
1.ジェルブロア(Gerberoy)


10月からの旅のヒントは、「My Favorite Travels And Places (私の好きな旅と場所)」と題してランドスケープ・プランナーの 相馬正弘さんに執筆していただきます。

彼は、赤ちゃん連れでも楽しめるミュージアムでご紹介した国立大阪国際美術館 はじめ数々の公共建築の設計に参画、通産省グッドデザイン賞(青山パークタワー計画) などを受賞なさった地域計画、都市計画、公園計画の専門家です。

そして、今までお仕事やプライヴェートで世界中を旅してこられ、 そのつど素晴らしい記録を残していらっしゃいます。 その魅力的な旅の記録の中から特別にお願いして、 10月からのシリーズを書き下ろしていただきました。

今回のシリーズは、そんなランドスケープ・プランナーの目を通して、美しいフランスの風土をご紹介していただきます。

どうぞお楽しみください!

【はじめに】
私は、ケイタイサプリ web マガジンの読者の一人です。
とりわけ、「旅のヒント」は、毎回楽しみに愛読しております。
私自身が訪ねたことのある場所や訪ねてみたいと思っていた場所が、著者のリアリティーあふれる記事であることにも共感を覚えております。

このweb マガジンを運営される アルシノーバの編集部の方に旅先のお話をしたことが、執筆の依頼をいただくきっかけだったようです。

これまでに執筆される方の記事を再読しますと、旅先の環境.地理.歴史.文化.芸術.生活.行事などなど丁寧に調べられ整理しまとめられておられますが、私の出筆は、これまでに訪ねたいくつかの国の、My Favorite Travels And Places(私の好きな旅と場所)とさせていただき、感じたことや思いつきますことなどを、書き留めた記録をもとにつづらせていただく事でお引き受けしました。

旅の始まりは、フランスからです。

今年の5月に、約2週間 ピカルディー、ノルマンディ、ブルターニュ地方の著名な観光地に、"フランスの最も美しい村々"に認定されるジェルブロワ(Gerberoy) をはじめとする7つの村を加え、訪ねました。

【"フランスの最も美しい村々"(Les plus beaux villages de France)】

"フランスの最も美しい村々"のロゴマーク

"フランスの最も美しい村々"(Les plus beaux villages de France) は、1982年フラ ンス西南部リームザン地方のコロンジュ・ラ・ルージュ (Collonges -la-Rouge) の村長 シャルル.セイラック(Charles Ceyrac)が、郷土の文化遺産と景観保護と観光的な振 興等を目的にフランス国内の中世の面影をとどめる小さな村々に呼びかけたことに 起源し、協会が設立され今日に至っています。

Les plus beaux villages de France site official
http://www.les-plus-beaux-villages-de-france.org/

この"フランスの最も美しい村々"の協会が認定条件としている主な内容は、次の通りです。
・人口が2,000人未満であること。
・史跡建造物の指定を受けた建造物がある地域や風致地区が認められた地域.地区が存在すること。
・村の周辺の道路網が整備されていること。
・ 村の建造物の外観(建造物の形状.屋根や窓の形態や色調等)に均質性と調和がとれていること。
・電線が地下埋設され、花や植物による修景等、村全体としての美化努力がされていること。
・観光案内所や宿泊施設等の観光客の受入れ体制が整っていること。
等があげられ、数年に一度認定の資格審査がおこなわれ更新されています。

2009年の公認ガイドブックには、151の村々が認定を受けていると記されています。

"フランスの最も美しい村々"の公式ガイドブック




【ジェルブロワ(Gerberoy)】

ジェルブロワは、"フランスの最も美しい村々"の認定を受ける村の一つです。

Gerberoy
http://www.gerberoy.fr/

村は、パリの北約110km車で2時間ほどのピカルディー地方の丘陵地帯にあって、薔薇の村として知られています。

パリからボーベを経由し国道31号線沿いに位置していますが、村の標識を見落とすと通り過ごしてしまうほどの小さな村です。

静かなジェルブロアのたたずまい

訪ねた5月は、薔薇の花が咲き始めた爽やかな日で、観光客には一人も出会うことはありませんでしたが、薔薇の花が咲き競う6月には、人口100人に満たないこの村に、フランスはもとよりヨーロッパ.アメリカ.日本など各国から観光客が大挙し訪れるとの事です。

ノルマンディ建築様式のコロンバージュ

ジェルブロワは、ようやく車が行き違うことが出来る石畳の狭い道に、ノルマンディ建築様式のコロンバージュ(Colombages)と呼ばれる木組みの家々の家並みから始まります。そして車でものの5分も走れば通り抜けてしまいます、村への入口と出口に用意された来訪者用の小さな駐車場に車を止め、一時間ほど散策すれば一巡り出来てしまうほどの小さな村です。

村のレストラン

ジェルブロワの薔薇は、約100年前画家のアンリ・ル・シダネル(Henri Le Sidaner 1862-1939年)が、彫刻家のオーギュスト・ロダン(Francois August Rodin 1840-1917年)に勧められ、この地に魅せられ1901年に移り住み家屋を修復し庭園を造り薔薇を植え、村の人達にも植えることを勧め、薔薇に包まれた村にしようと提案したことが始まりです。
彼は、亡くなるまでの生涯この村と薔薇の風景を描き続けたそうです。

咲き始めた薔薇の花(写真:大原國章)

咲き始めた薔薇の花を見るにつけ、村の人達が約100年の間薔薇を育て続けてきたことに、そして6月の開花にあわせ一年間の手入れを怠ることのない努力に頭が下がります。

村の人達の並々ならぬ、薔薇への思いや愛情に答えるように、咲き競う薔薇の花がそっと静かに輝く宝石のように思えた村です。

村の高台にあがると、ノルマンディ地方の丘陵へと続く雄大な景観と農村の風景は、悠久の大地と歴史と時間を実感も出来る私の好きな場所でもあります。
 
去りがたいジェルブロワをあとに、次回はジャンヌ.ダルク縁の地ルーアンを御案内したいと思います。


参考図書.他
:「Las plus beaux villages de France」公式ガイドブック 2009.01
:「旅」(ノルマンディは薔薇の村から) 新潮社 2008.08
:「フランスの美しい村を訪ねて」 辻啓一著 角川書店 2004.11
:アンリ・ル・シダネル(Henri Lu Sidaner 1862-1939年)は、フランス領モーリシャス生まれの新印象派の画家で、彼の絵画はポーラ美術館.東京冨士美術館.倉敷大原美術館で見ることができます。




【作者プロフィール】
相馬正弘(そうままさひろ)
・京都市出身
・設計事務所を開設し、地域計画.都市計画.公園計画を中心に活動中
・大学の講師として後進の指導も
・趣味は、旅行.テニス
新連載「My Favorite Travels And Places(私の好きな旅と場所)は
ケータイ・サプリwebマガジンのための書き下ろしです。
使用されている写真の著作権は相馬正弘さんと記載されている方にあります。