My Favorite Travels And Places
(私の好きな旅と場所)
4.ロックロナン(Locronan)
【はじめに】今回は、ブルターニュ(Bretagne)のロックロナン(Locronan)を訪ねます。
はじめにブルターニュの概要と特徴をまとめ、ロックロナンに足を運びたいと思います。
<ブルターニュの地図> |
【ブルターニュ (Bretagne)】
ブルターニュは、大西洋にのびる三方を海に囲まれるフランス最西端の半島のほぼ全域をしめています。
厳しさの中にも豊かさを秘めた自然に、独自の歴史と文化を持つ魅力的で興味の尽きない地です。
しかし、フランスの中にあっては、異郷の地ともいわれています。
ブルターニュは、ブルトン語でアルモール(海の国)とアルゴール(森の国)と言われるように海と森の半島です。
ブルターニュの海岸線は、切り立つ断崖や巨岩の入り江と約15mにも及ぶ潮位差で、人々を寄せ付けないほどの海です。
しかし、世界に名だたる牡蠣、ムール貝、海藻などの養殖に、製塩や漁業も盛んで、北岸のエメラルド海岸や、南岸のカルナックなどフランス有数のリゾート地をひかえる豊かで美しい海でもあります。
<牡蠣の産地カンカルの海(防波堤の先が潮位差を活かした牡蠣の養殖棚)> |
<エメラルド海岸>
内陸の丘陵地には、物語と伝説の森が広がっています。
ヨーロッパで人気のアステリクス(Asterix)の物語や、アーサー王(Roi Arthur)の伝説に、今回訪ねるロックロナンの聖ロナン(Saint Ronan)の伝説など、歴史と人々のロマンを思い起こさせられる森でもあります。
そして四季を彩る、しゃくなげ.あじさい、ふじ、はまかんざし(アルメリア)、すいせん(グレナンすいせん)などの花々が咲き競う丘陵でもあります。
:アステリクスの物語
1959年に創作されたポーランド出身のルネ・コジニ(物語担当)とイタリア出身の コルベール・ユデルゾ(漫画担当)の合作による漫画です。
紀元前のブルターニュを舞台に、侵攻するローマ帝国のジュリアス・シーザーと戦っ た英雄ウェルゲルトリクスをモチーフとした、主人公のアステリクスとその仲間達 が魔法や豪腕をふるって自国を守ってゆく物語です。
ヨーロッパで人気の漫画で、パリ近郊の森のなかにアステリクス・パーク(Parc Asterix)も建設されています。
:アーサー王の伝説
アーサー王の伝説は、ケルトの伝説を起源とし、5世紀ごろから13世紀にかけてフランスやイギリスで語り継がれてきたいくつかの物語で構成されています。
アーサー王は、聖剣エクスカリバーを手に侵略者と戦うブルトン人の英雄でもあり、平和の使者ともされています。(実存した王ではありません)
アーサー王の伝説を題材としたジョシュア・ローガン監督の「キャメロット」(1967年)やスティーブ.バロン監督の「エクスカリバー」(1988年)などの映画でもおなじみです。
:聖ロナンの伝説
聖ロナン司教がキリスト教の布教に訪れたブルターニュの地で、彼を陥れようとする様々な嫉みや嫉妬に立ち向かい、やがて聖人として崇められるまでの話をまとめたものです。
【ロックロナン(Locronan)】
ロックロナンは、ブルターニュ圏ファニスティール県のコミューン(Commune:自治体) で人口約800人の「フランスの最も美しい村」(Le Beaux Villages de France)にも登録 される15世紀から17世紀に築かれた美しくい屋並みをとどめる静かな村です。
5世紀にアングロサクソン人に追われてブリテン島から移住してきたケルト系の人々が、ブルトン語で聖なる木立を意味するネメトン(Nemeton)と呼ばれる聖域を築き住み始めます。(現在のロックロナン)
7世紀にアイルランドからキリスト教の布教のためこの地に渡ってきた聖ロナン司教は、 多くの病人を救い、人々に自然崇拝の多神教(ドルイド教)からキリスト教への改宗を説き、やがて聖人として崇められ、ブルトン語の聖なる場所を意味するロックと聖ロナンにちなみ、ロックロナンが村の名前となり、巡礼者が訪れる巡礼地ともなります。
ロックロナンの中心に位置する大広場(Grande Place)を囲むように、13世紀に建てられた聖ロナン教会(15世紀に再建)や16聖世紀に建てられたペニティー礼拝堂をはじめ、(旧)東インド会社など花崗岩で築かれた建物群は、ロマネスク様式(一部ゴシック様式)を基調とし、保存が良いことから美しい建築美と家並みをみせています。
<聖ロナン教会(前方)とペニティー礼拝堂(後方)> |
<ロックロナンの家並み>
そうしたことから、しばしば映画の撮影地として使用され、ロマン・ポランスキィー監督の「テス」(1979年)やフィリップ・ド・ブロカ監督の「ソフィーマルソーの愛」(1988年) に登場します。
15世紀から17世紀中ごろまでの大航海時代には、ロックロナン一帯で栽培されていた麻が植民地開拓や貿易に使用された帆船の帆布に供し村が発展し繁栄します。
最大の顧客は、アジアとの貿易を独占していた東インド会社で、ロックロナンにも事務所があり、現在も当時の建物は、観光客のお土産物の売店、レストラン、画廊、アトリエ、住居などに使用されています。
ロックロナンは、18世紀の産業革命により帆布産業が衰退しますが、当時の繁栄の面影をとどめながら、今は静かにたたずんでいます。
< かつての東インド会社の建物> > |
村の中心地からドゥアルヌネ湾(Douarnenez)にむけて住宅地を抜ける坂道を下ると、ひっそりとたたずむノートルダム福音礼拝堂にたどり着きます。 礼拝堂内には、百合の香りがほのかにただよい、蝋燭のともし火が人々を暖かくつつみこむ、心うたれる祈りの場所に出会います。 |
<ドゥアルヌネ湾にむけて住宅地を抜ける坂道(湾は写真の左に折れた方角に位置しています)> |
<ノートルダム福音礼拝堂> |
ブルターニュは、厳しく豊かな自然を背景に人々の謙虚な生活を実感することのできる、私の好きな旅(先)です。
そして、ロックロナンは、人知れずとも人々の敬虔な祈りが伝わってくる、私の好きな場所でもあります。
【参考図書】
・「フランスの美しい村」 菊間潤吾監修 新潮社 2002年11月
・「ブルターニュ大好き」 篠沢秀夫著 近代文芸社 2009年5月
【作者プロフィール】 |
相馬正弘(そうままさひろ) |
・京都市出身 |
・設計事務所を開設し、地域計画.都市計画.公園計画を中心に活動中 |
・大学の講師として後進の指導も |
・趣味は、旅行.テニス
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新連載「My Favorite Travels And Places(私の好きな旅と場所)は ケータイ・サプリwebマガジンのための書き下ろしです。 使用されている写真の著作権は相馬正弘さんと記載されている方にあります。 |