My Favorite Travels And Places
(私の好きな旅と場所)

14.ブザンソン(Besançon)


【はじめに】

今回は、フランス東部スイスにほど近いフランシュ・コンテ地域圏ドゥー県の県庁所在地でもある ブザンソン(Besançon)を訪ねます。

ブザンソンは、前回訪れたグランド・シャルトリューズ修道院(Monastera de La Grand Chartreuse)のあるローヌ・アルプ地域圏の北に位置しています。

パリからは、TGVでリヨンを経由し約2時間40分ほどの距離にあります。

ブザンソンは、フランスとスイスの国境沿いのジュラ山脈(Mont de Jura)の西に流れるドゥー川 (La Doubs) が Ω (Ohm:オーム)の文字を描く輪の中に、中世の面影を留めて静かにたたずむ人口約11万6千人の街です。

<ドゥー川>


訪れた5月の晴れた日の早朝には、ひんやりとした冷気が漂う中、ドゥー川の瀬音に、新緑の木立がかがやき小鳥のさえずりがここちよく聞こえ、車の行き交う音に「おはよう」(Bonjour) と朝の挨拶がまじかに聞こえてくる爽やかな一日の始まりでした。

【歴史と文化の街を歩く】

ブザンソンの観光は、まずΩの要に位置する丘の上の要塞 シタデル (Citadelle)からはじめられることがお勧めです。

ローマ時代の城塞の跡に築城家ボーバン (Sébastien Le Prestre de Vauban 1633〜1707年) によって築かれた17世紀の要塞シタデルからは、ブザンソンの街が一望できるからです。

そして、当時の要塞の原型をとどめる文化遺産として、2008年に世界遺産に登録されてもいます。

<シタデルからのブザンソンの街>

この要塞の丘の下には、2世紀に建設された黒門(Porte Noire)を基点に約1.2Kmの グランド・リュ通り (Grand Rue) が街のほぼ中央を抜けています。

グランド・リュ通り沿いには、リュミエール兄弟の生家(Maison natale des Frères Lumière).ヴィクトル・ユゴーの生家(Maison natale de Victor-Hugo).9月8日広場 (Place du Huit September).市庁舎 (Hotel de Ville).グランヴェル宮殿の中にある時の博物館 (Palais Granvelle/Musée du Tenps)などがみられます。

通りのエンドとなるパリ広場 (Place du Paris)には、 ブザンソン地方音楽院 (Conservatoire a Rayonnement Régional de de Besançon) やブザンソン美術館 (Musée des Beaux Arts Besançon) など、歴史と文化の魅力にあふれる施設が集まっています。


<ブザンソン地方音楽院>


<ブザンソン地方音楽院でのバイオリンの授業>


【話題の日本人とブザンソン】

1948年にはじまるブザンソン国際音楽祭 (Festival de musique de Besançon Franche-Comte) は、クラシック音楽の登竜門のーつとされています。

この音楽祭のプログラムのーつである指揮者コンクールで、小澤征爾氏が1959年にグランプリを受賞し、世界デビューを果たしています。

<建物の外壁に描かれた指揮者の絵>


2007年ブザンソン国際音楽祭が開催される建物の改築が国際設計競技で公募され、建築家の隈研吾氏が最優秀賞を受賞し、(仮称)「ブザンソン文化芸術センター」として2011年に完成予定で工事が進められています。

【ディヌ・リパッティとブザンソン】

私がブザンソンの街の名前を知ったのは40年ほど前の高校時代にピアニストディヌ・リパッティ (Dinu Lipati 1917-1950年) の「ブザンソン音楽祭における告別 (最後) ピアノリサイタル」と題されるレコードを聴いたことに始まります。

1950年9月16日 ルーマニアのピアニスト. ディヌ・リパッティは、ブザンソン音楽祭でのピアノリサイタルに白血病(実際は悪性のホジキンリンパ腫であった)で意識が朦朧とする中、ジュネーブ郊外のシェヌ・ブール (Chène-Bourg)の自宅から家族と医師につきそわれ寝台車で会場に向かいます。

誰もが、ピアノの演奏は無理からぬ状態であると思う中、バッハのパルティータ第1番から演奏がはじまり モーツアルトのピアノソナタ第8番.シューベルトの即興曲第3番2番そして最後に得意としたショパンの14曲のワルツにのぞみますが13曲目で力つきピアノから倒れるように退場します。

しばらくして、生きている最後の力を振り絞るようにピアノにむかいバッハのカンタータ147番「主よ人の望みの喜びよ」を静かに弾ひきはじめ弾き終えます。

<ディヌ・リパッティの「ブザンソン音楽祭における告別 (最後の ピアノリサイタル」を録音したレコード>


<レコードの解説書>


そしてその年の12月2日ジュネーブ郊外のシェヌ・ブールの自宅で33年の生涯を終えます。

最後となることを予感し、命をかけるごとくピアノの演奏に臨んだディヌ・リパッティは、私の好きな音楽家でもあり会場となったブザンソンは、私の好きな街でもあります。


【参考図書.他】
・「Besançon」Editions Declics (2006年) :photos Denis Maraux
・「Dinu Lipati His Last Risaital」(Besançon Festival Septenber 16 ,1950)Angel records (Album angel 3556)






【作者プロフィール】
相馬正弘(そうままさひろ)
・京都市出身
・設計事務所を開設し、地域計画.都市計画.公園計画を中心に活動中
・大学の講師として後進の指導も
・趣味は、旅行.テニス

新連載「My Favorite Travels And Places(私の好きな旅と場所)は
ケータイ・サプリwebマガジンのための書き下ろしです。
使用されている写真の著作権は相馬正弘さんと記載されている方にあります。