My Favorite Travels And Places
(私の好きな旅と場所)

16.フリヒリアナ(Frigiliana )


【はじめに】

フリヒリアナ(Frigiliana )は、スペインを代表するリゾートの一つアンダルシア州コスタ・デル・ソル(Costa del Sol = 太陽の海岸)東端のアルミハラ山脈(Sierras de Almijara)の麓に位置しています。

コスタ・デル・ソルの玄関にあたるマラガ(Malaga)からフリヒリアナまでは、車で約1時間 地中海に沿って高速国道A-7号を東に50kmほどのネルハ(Nerja)を左折し、地方道MA-5105号で約6kmの距離です。

フリヒリアナは、地中海を望む標高300mほどの急峻な斜面にたたずむプエブロ.ブランコス(Pueblo Blancos )と呼ばれる白い村の一つで、人口約2200人ほどの小さな村です。

<フリヒリアナ(Frigiliana )>


<美しい岬の街ネルハ(Nerja)>



【受難の白い村】

フリヒリアナは、紀元前のイベリア時代に砦が築かれていますが、今日見られる煉瓦色の屋根と白い壁のたたずまいは、レコンキスタ(Reconquista =国土復興運動)によりイスラムのナスル朝グラナダ王国が1492年に滅亡し、都であったグラナダを追われたムーア人によって15世紀から16世紀の半ばにかけて築かれた村です。

この地にのがれた彼らは、イベリア時代からの葡萄やイチジクの栽培等をひきつぎ 生活をはじめますが、キリスト教徒の攻勢や迫害がおよびます。

これに抵抗し1568年には、「フリヒリアナ岩(場)の戦い」と呼ばれる抗戦で、多くのイスラム教徒の犠牲者をだした地でもあります。

そうした状勢を背景に16世紀後半には、村の中心にカトリックのサン・アントニオ教会が建てられますが、モリスコ(Moriosco)と呼ばれるカトリック教徒に改宗した隠れイスラム教徒の人々により、独自の生活や文化が継承され、フリヒリアナには今日もイスラム文化のアイデンティティー(Identity)が色濃く残っています。

最も特徴的に見られるものの一つが、石灰で白く塗られた厚い壁と、小さな窓の家並みのプエブロ.ブランコスと呼ばれる白い村であると言えます。


【伝統の特産品】

フリヒリアナには、スルタナレーズン(Sultanan raisin)と呼ばれる干葡萄からつくられるドルチェワイン(甘口の食後酒)や干イチジクに陶器、スペインカーペットのハラパ(Jarapa)などが今も生産されています。

又、インヘニオ広場に隣接する17世紀ルネサンス様式の貴族の館を生かしたヨーロッパ唯一の精糖工場では、砂糖黍から伝統的な方法でシロップが生産され村の特産品ともなっています。

多くの白い村が、観光化され観光による経済に依存しつつある中にあって、フリヒリアナでは、歴史の中で育まれてきた生活の知恵としての、農業生産や加工に伝統的工芸品などの生産を基盤とし村の経済がささえられ、又 それらが村の魅力ともなっています。

<オレンジの樹とアンダルシアの空>



【悠久の白い村】

フリヒリアナは、多くの白い村と同様に狭く曲がりくねった坂と階段の村です。

車の通ることのできない一見不便極まりない狭く曲がりくねった坂道や階段は、強い日の光を遮り家々がつくる日影の中に、風の流れる爽やかな生活路をつくりだしています。

<日影の小道>




<果物屋の店先>



坂と階段の小道の両側には、住居.八百屋.肉屋.雑貨屋.衣料品店.酒屋.居酒屋.レストラン.土産物屋等々が続きます。

まばゆいばかりの白壁に、窓辺の鮮やかな緑と花越しに望む紺碧の空と海は、アンダルシアの情景そのものの一つでもあります。

フリヒリアナは、イスラムの時代とその世界にタイムスリップしたような不思議なまでの空間と情景の中に、悠久の時間が流れているようでもあります

<緑と花と紺碧の空>


<坂の村フリヒリアナ>



高台から望むフリヒリアナの村には、歴史に刻まれた無常感や孤独感がただよっているようでもあります。

しかし、ここに暮らす人々の笑顔には、時代を乗り越えてきたたくましさと優しさを覚える私の好きな場所でもあります。


【参考図書.他】
・光と影永遠なる国「スペイン.アンダルシア紀行」渡部雄吉 著 クレオ(1997年)
・「スペイン」増田義郎 監修 新潮社(1998年)
・「南スペイン.アンダルシアの風景」川成洋.坂東省次 編 丸善(2005年)
・「FIGARO」スペインとイタリアの小さな町 アンダルシアとトスカーナ
  阪急コミュニケーションズ(2009年)






【作者プロフィール】
相馬正弘(そうままさひろ)
・京都市出身
・設計事務所を開設し、地域計画.都市計画.公園計画を中心に活動中
・大学の講師として後進の指導も
・趣味は、旅行.テニス

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ケータイ・サプリwebマガジンのための書き下ろしです。
使用されている写真の著作権は相馬正弘さんと記載されている方にあります。