My Favorite Travels And Places
(私の好きな旅と場所)

18.グアディクス(Guadix)


【はじめに】

グアディクス(Guadix)は、グラナダ(Granada)から東に約60km高速国道A-92で約50分ほどです。

グアディクスの地名は、アラビア語のGuad-Haix(グアド-.ハイックス) “命の水”と云う意味に起源しています。

地名の示す通り、シェラ.ネバダ山脈(Sierra Nevada)を水源とするグアディクス川沿いの水にめぐまれた標高約900mの盆地にひらけた街です。

<グアディクス盆地と街>


人口約21, 000人のグラナダ県北部最大の街で、紀元前のローマ時代からの交易と交通の要所として栄えてきた歴史のある古都でもあります。

現在グアディクスには、約2,000戸の人が住む洞窟住居(Cuevas)があることでも知られています。


【住まいの起源・原点の一つ】

クエバス(Cuevas)と呼ばれる洞窟住居は、カーサ(Casa)と呼ばれる一般的な住居とはあきらかに区分される独立した住居様式をそなえています。

洞窟住居は、アンダルシア内陸の夏の40度を越える暑さと氷点下にもなる冬の寒さの気候的条件に対し、地中が年間を通し18度前後の気温で湿度も低く快適に過ごせることに起源し発達したものです。

あわせて、グアディクス一帯の砂礫混じりで粘土質の地質は、硬くそして柔らかく掘削しやすく崩れにくい特性を持ち、ほぼ垂直の壁面に降りかかる雨や風にも土が流れることなく剥離することもなく、防水の必要もないことも洞窟住居が発達する要因ともなっています。

<洞窟住居のみられる丘陵地>


又、この地域でのローマ時代以前からの民族間の対立や以降の宗教上の争いから、洞窟に身を隠し生活を守ることにも適した住居であったと言えます。

洞窟住居は、スペインのグラナダ.サクロモンテ(Sacromonnte)・バレンシア.パテルナ(Paterna)・トルコ.カッパキドア(Cappadocia)・イタリア.ナポリ歴史地区マテーラ(Matera)・中国陜西省ダンジェシャン村(Dang Jia Shan)など世界各地にみられます。


【機能的で快適な生活空間】

グアディクの洞窟住居は、スペインの中でもっとも多くの人々が生活している洞窟住居です。

しかし、年々その戸数と人数は減少し、その住居形態にも変化がみられます。

かつては、農民やジプシーの人々が主な住人であった住居から、サラリーマンの家族やホテル.レストラン等の観光施設として、ヨーロッパ各国からのリタイヤーの長期滞在 アパートホテルなどの利用としても人気のある施設ともなっています。

又、クエバス(Cuevas)とカーサ(Casa)の折衷型の住居様式も見られるようにもなってきています。

昨年秋にグアディクス郊外の20室を持つ洞窟ホテルに滞在しました。

丘陵の稜線につながる谷あいに位置するこのホテルは、住居があることすら判らないほどで、白く塗られた換気塔(チメネア)と小さな入り口と窓が客室の目印です。

<洞窟住居の換気塔(チメネア)>

ゲストルーム.居間.キッチン.寝室.浴室.トイレ.収納室とそれぞれに独立した部屋は、いずれも漆喰で白く塗られた明るい室内で、休む.楽しむといったホテル生活にも機能しています。

給水.電気.排水の配管や配線も上手く壁に埋め込まれすっきりとした室内で、浴室とトイレの湿気や臭気も天井のほど良い勾配で換気され、寒からず暑からず快適そのものです。

洞窟住居の室内(出入り口と台所)<>


<洞窟住居の室内(浴室への通路)>


【歴史の中で経験と生活から生まれた洞窟住居】

  現在洞窟住居に関する建築基準や安全基準が、どのように適用されているのかは、さだかではありませが、永い洞窟住居の歴史と生活と経験の中から安全かつ機能的で快適な生活空間となっていることは確かです。

洞窟住居のあるグアディクスは、アンダルシアの自然環境と景観に同化し、あわせて、歴史と共に人々の生活を継承し、静かな時間の流れる私の好きな場所でもあります。



【参考図書.文献】
・「南スペイン.アンダルシアの風景」川成洋.坂東省次 編 丸善(2005年)
・「FIGARO」スペインとイタリアの小さな町 アンダルシアとトスカーナ
阪急コミュニケーション(2009年)
・「グラナダ」スペイン政府観光局(2009年)
・「アンダルシアの洞窟住居調査-グアディクス-」調査報告書 黒川威人(1983年)
・「集落への旅」原広司 岩波新書(1987年)




【作者プロフィール】
相馬正弘(そうままさひろ)
・京都市出身
・設計事務所を開設し、地域計画.都市計画.公園計画を中心に活動中
・大学の講師として後進の指導も
・趣味は、旅行.テニス

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ケータイ・サプリwebマガジンのための書き下ろしです。
使用されている写真の著作権は相馬正弘さんと記載されている方にあります。