My Favorite Travels And Places
(私の好きな旅と場所)

25.グラサレマ(Grazalema)


【はじめに】

グラサレマ(Grazalema)は、アンダルシア州カディス県北東部グラサレマ山脈自然公園(Parque Natural Sierra de la Grazalema)のほぼ中央の山麓に静かにたたずむ白い村(Los Pueblos Blanco)です。

グラサレマは、アルコス.デ.ラ.フロンテーラ(Arcos de la Frontere)から、車で国道 A-372号を約2時間、標高1,103mのボイヤー峠(Puerto del Boyar)を越えるとほどなく目の前に村がひらけ一望できます。

ロンダ(Ronda)からは、車で国道A-372号を約40分、樹々の間から見え隠れする山道を進むと村が少しずつ近くなります。

いずれからも、グラサレマ山脈自然公園の素晴らしい景色のつずら折の山道を白い村グラサレマに向かいます。

<アンダルシアの主な街>




【森と霧の白い村】

グラサレマは、サアラ.デ.ラ.シエラ(Zahara de la Sierra).・オルベラ(Olvera)・セテニール.デ.ラス.ボデガス(Setenil de las Bodegas)をはじめとする幾つかの村をつないだ観光ルートの白い村街道(Ruta de los Pueblos Blancos)に挙げられている村の一つです。

しかしグラサレマには、それらの白い村々とは異なる特徴が見られます。

大西洋から吹く湿気をおびた海風は、標高1,500m級の山々が連なるグラサレマ山脈にあたり、南麓一帯にイベリア半島で最も多い約2,200mm(年間平均降雨量)の雨をもたらします。(スペインの年間平均降雨量は約770mm)

谷間に降るこの雨と、年間平均気温約18度の温暖な気温は、一帯をしばしば霧に包みます。

こうしたことからグラサレマは、他の白い村々には見ることの出来ない森と霧に包まれた白い村となります。

そして森と霧の白い村とも呼ばれています。

<ボイヤー峠付近からのグラサレマ>




【繁栄と衰退の歴史の中で・・・・】

グラサレマ近くの、ピレタの洞窟(Cueva de la Pileta)には、旧石器時代に描かれた壁画が残され、人の住んでいた足跡をとどめています。

ローマ時代には、戦略上の要所とし又、大西洋岸と地中海岸を結ぶ交易路に位置する村とし栄えています。

8世紀から15世紀のイスラム時代に、北アフリカからイベリア半島に渡ってきたイスラム教徒のムーア人により、現在の村の原型が築かれます。

彼らによってこの地に羊とヤギがもたらされ、当時は生活の必需品として衣類などが織られていましたが、やがて手工業としての織物の生産がはじまります。

19世紀初頭には、織物産業に発展し人口も約14,000人をかぞえます。

その後、スペイン国内各地に工業化された織物工場が誕生し、大量生産が始まりグラサレマの織物産業は衰退します。

しかし、現在もいくつかの織物工場が残り伝統的な織物技術が継承され、良質の毛布や敷物にショールなどが生産され特産品となっています。

< 山間の織物工場>


<白い村グラサレマ >



グラサレマは、ローマ帝国(カトリック).イスラム.レコンキスタ(Reconquista=国土回復運動).スペイン革命.第二次世界大戦.スペイン内戦等々の時代とその歴史の中で繁栄と衰退を繰り返してきています。


【生物多様性をとどめる自然】

グラサレマの変化に富む気候と地形は、生物多様性を持つ自然を育んでもいます。

山里から山頂にむかってハンノキ(Alder).ニレ(Elm).ウバメガシ(Phillyraeoides Oak).野生種のオリーブ(Wild Olive).コルクガシ(Cork Oak).にスペインモミ(Spanish Fir).等の特徴のある固有の美しい樹林の景観がみられます。

中でも、スペインでピンサポ(Pinsapo)と呼ばれるスペインモミは、地質年代の第三 紀(約6,500万年前-180万年前)に出現した化石植物の一種です。

しかし、スペインモミが植物学上記載されるのは、約170年前の1837年スイスの植物学者ピエール.エドモンド.ボアシエ(Pierre Edomond Boisser 1784-1857年)が行なった一帯の調査で発見されてのことです。

スペインモミは、モミのなかでも最も美しい円錐形をした樹形にそだち、約200年の樹齢をかさね樹高約30mに生育します。

自生地では、絶滅が危惧される希少種にあげられていますが、栽培されるものがクリスマスツリーとして人々に親しまれてもいます。

<ピンサポ(Pinsapo)=スペインモミ>


<ピンサポ(Pinsapo)=スペインモミ>



そして、これらの樹林と周辺の山々には、イベリアオオヤマネコ(Iberian Iynx).アカシカ(Red Deer).シロイワヤギ(Mountainwhite goat).アナグマ(European badger)等の 哺乳類に、イーグルフクロウ(Eagle Owl Bubo). イヌワシ(Golden eagle)等の鳥類も多く棲息する生物多様性を持つ自然地となっています。


【生命力あふれる自然と魅力ある歴史と文化】

19世紀以降の近代に二人のイギリスの人類学者によって、スペインとアンダルシアの自然.社会.歴史.文化.民族.宗教.美術等が、その著書により紹介されます。

・リチャード.フォード(Richard Ford:1796-1858年) 著
 「スペイン旅行者と読者のためのハンドブック」
  (A Handbook for travelers in Spain and Readers at Home:1845年)
・ジュリアン.ビット.A.リバース(Julian A Pitt-Rivrs:1919-2001年) 著
 「シエラの人々」 (People of the Sierra:1954年)

この二冊の著書は、あまり知られていなかったグラサレマをはじめとする村々の自然や歴史、文化等を紹介するとともに、自然の大切さやその保護.保全の必要性を警鐘することにもつながってゆきます。

そして、1977年にグラサレマ一帯は、ユネスコ(UNESCO)の生物圏保護区の指定を受け、1984年にはグラサレマ山脈自然公園としアンダルシア州最初の自然公園の指定を受けています。

今日、スペインはもとより世界各国から多くの人々が訪れる、観光地.保養地.自然レクリエーション地となっています。

豊かな自然をとどめ、さまざまな時代をかさね、魅力ある歴史と文化を育み、静かにたたずむグラサレマは、私の好きな場所でもあります。


【参考図書】
・地球の歩きかた「スペイン」 ダイアモンド社 (2010年)
・「Grazalema Guide」Grazalema Asociacion Turismo(2009年







【作者プロフィール】
相馬正弘(そうままさひろ)
・京都市出身
・設計事務所を開設し、地域計画.都市計画.公園計画を中心に活動中
・大学の講師として後進の指導も
・趣味は、旅行.テニス

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ケータイ・サプリwebマガジンのための書き下ろしです。
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