My Favorite Travels And Places
(私の好きな旅と場所)


30.コーズウェイ.コースト(Causeway Coast)


【はじめに】

今回は、イギリス北アイルランドのコーズウェイ.コースト(Causeway Coast)を訪ねます。

コーズウェイ.コーストは、アントリム州(Antrim)のアイリッシュ海(Irish Sea)に面するポートスチュワート(Portstewart)からバリーキャッスル(Ballycastle)にいたる約52kmに及ぶ風光明媚な自然景観の続く北アイルランド屈指の景勝地です。

・断崖上の古城ダンルース城(Dunluce Castle)
・静かな街ブッシュミルズ(Bushmills)
・世界自然遺産のジャイアンツ.コーズウェイ(Gaiants Causeway)
・景勝地キャリック島を結ぶキャリック.ア.リード吊橋(Carrick-A -Rede Rope
 Bridge)などの観光地や景勝地が続きます。

<コーズウェイ.コーストの観光地と景勝地>


【ダンルース城(Dunluce Castle)】

ダンルース城へは、首都ベルファストからリゾート地のポートラッシュ(Portrush)まで特急列車で約1時間40分程、ここから車でアイリッシュ海沿いに東に約20分の距離です。

ダンルース城は、13世紀にリチャード.デ.バーク(Richard de Burgh :1259 -1326年)アルスター伯爵によってバイキングなどから守る小さなが要塞がアイリッシュ海に突き出た断崖絶壁の上に築かれています。

岬の下に出来た洞窟を跨ぐように築かれた城内へは橋を渡り入城しますが、陸から敵の攻撃を受けた時にはこの橋が落ち城主らが地下の洞窟に設けられていた船着場から海に逃れることのできる構造となっていました。

16世紀にスコットランドの貴族マクドネル家(MacDonald Family)の居城となり、その後改築増築により今日ヨーロッパでも最もドラマチックな古城の一つとなっています。

1690年以降マクドネル家の衰退により城は荒廃し、崖の崩落や海の侵食などによりかつての城や船着場も当時の姿をとどめていません。

しかしダンルース城は、現在北アイルランド環境庁により維持管理がされ、少しずつ修復も図られ16世紀の姿を取り戻しつつあります。

<ダンルース城とコーズウェイ.コーストの海岸>


<城内にいたる橋とかつての船着場(中央の洞窟)>


【ジャイアンツ.コーズウェイ(Gaiants Causeway)】

ジャイアンツ.コーズウェイへは、ダンルース城からブッシュミルズの街を通りさらに東に約3km車で15分程です。(ダンルース城からは約30分程です)

ジャイアンツ.コーズウェイは、アイリッシュ海に面し玄武岩が露頭する奇岩の幻想的な景観が約8kmに渡り続く海岸です。

約6千万年前の地殻変動に伴う火山の噴火により石灰岩台地に流れ出た溶岩が玄武岩の岩層を形成し、数百万年の時間をかけ冷えて凝固する過程で均一均等に収縮したことから柱状節理を形成します。

約1万年前の氷河期以降に氷河が溶け、海の水位があがり侵食作用と風化作用により岩層の一部が海岸に露頭し、鉛筆を束ねたような柱状節理の石柱群が表れ、今日見られる景観となります。

<柱状節理の断崖が続く海岸>


石柱は六角形を初めとする多角形の断面を持ち、直径約50cm高さは30mに及ぶものを含め約4万本の石柱がこの海岸一帯に見られます。

<六角形の石柱>


<ジャイアンツ.コーズウェイの海岸>




しかしこの景観は、人類が誕生するはるか以前に自然が造り出したもので、この柱状節理の景観が人々に知られるようになるのは今から約300年ほど前のことです。

ジャイアンツ.コーズウェイは、地元の人々の間では良く知れていましたが、多くの人々に知られるようになるのは、1693年ダブリンのトリニティ・カレッジ教授リチャード・バルクリー卿 (Sir Richard Bulkeley:1660-1710年)が王立協会へ提出した報告書だとされています。

そして、1739年にアイルランドの風景画家スザンナ・ドルリー(Susanna Drury:1698 - 1770年)がジャイアンツ.コーズウェイの水彩画を描き、優れた研究や芸術などに功労のあった人に贈られるロイヤル.ダブリン.ソサエティ(Royal Dublin Society)賞を1740年に受賞します。

1743年にこの水彩画に基き版画(エッジング=Etching)が製作され、1765年にフランスの百科全書第12巻(Encyclopedie vol. 12)の見出しの版画となり、1768年に出版された同百科全書の図版にも収録されます。

その図版にフランスの地質学者ニコラ・デマレ(Nicolas Desmarest 1725-1815年)によりこの景観の起源が火山活動によるものであることを初めて科学的に解説されたキャプションがつけられます。

数世紀前までは科学的な解明がされず、何故えの所産であるかわからず、謎めいた不思議な景観であったことから巨人が造り出したのではないかとされ、ジャイアンツ.コーズウェイ(巨人の石道)と呼ばれ、多くの巨人伝説が生まれ語り継がれてきています。

巨人はケルト神話に登場するアイルランドの英雄フィン・マックール(Finn MacCool)と対岸スコットランドの巨人ベナンドナー(Bennandonner)で、二人の巨人が大きな石で出来た道(コーズウェイ=Causeway)を行き来し、闘ったことなどを題材にした伝説が語り継がれています。

中には、アイルランドの巨人フィン・マックールがスコットランドの巨人女性に恋をし、彼女をアイルランドに招く為に石を敷き詰め道を造ったと言うロマンチックな伝説も残されています。

これらの巨人伝説は、ジャイアンツ.コーズウェイと同じ火山活動で生まれた対岸スコットランド.ヘブリディーズ諸島(Hebrides Islands)の無人島スタファ島(Staffa Island)にも見られる柱状節理のフィンガルの洞窟(Fingal's Cave)などの地質上の同一性と両国 の長い歴史の中で闘争と友好関係が繰り返されてきた史実を背景に生まれたと考えられます。

ジャイアンツ.コーズウェイは、1986年にユネスコの世界自然遺産に登録され、自然保護と環境保全をふまえ維持管理がナショナルトラストを中心に行われています。

【キャリック.ア.リード吊橋(Carrick-A -Rede Rope Bridge)】

キャリック.ア.リード吊橋は、ジャイアンツ.コーズウェイからさらに東に約10km車で30分程です。

吊橋は、大西洋からコーズウェイ.コースト沿いのバン川(River Bann)やブッシュ川(River Bush)に遡上する鮭を釣る為に、地元の漁師達により約350年前に岬の断崖絶壁からアイリッシュ海に浮かぶキャリック島(Carrick Island)に渡された20m程の吊橋です。

1960年代にはキャリック島で日に300匹あまりの鮭が釣れていたそうです。 しかし近年釣れなくなり養殖漁業へと移行していますが、現在も島に漁師小屋が残され漁が続けられてもいます。

鮭漁のために使われていた吊橋は、現在漁師だけでなく一般の観光客にも開放され、島から振返って見るコーズウェイ.コーストの景観やラスリン島(Rathlin Island)越しのスコットランドの美しい景観を眺望できる人気の島となっています。

2004年には50cmのダグラスファー(Douglas Fir=西洋松)の橋床に、両手を広げて届く左右2本のワイヤーロープが渡され10トンの過重に耐える橋に架け替えられています。

そして橋詰めにはゲートが設けられ、ナショナルトラストの職員により安全管理と観光客の誘導がされ、吊橋を渡るつかの間の恐怖体感とその先のキャリック島からの美しい景観を楽しむことが出来ます。

<吊橋とキャリック島>


<キャリック.ア.リード吊橋>


【悠久のコーズウェイ.コースト】

コーズウェイ.コーストの海岸は、入り江と島々に切り立つ断崖絶壁.なだらかな水際.白い砂浜など多彩な自然の美しい景観に富んでいます。

こうして現在も北アイルランド屈指の美しい景観をとどめているのは、自然や景観の保護.保全が図られ、コンクリートの防波堤や護岸などの築造に大規模な開発が規制され、又地域の材料(石材や木材等)をつかった建物等や道標にいたるまで隅々に自然と景観に対する配慮がなされているからに他なりません。

そして、ナショナル.トラストによる維持管理と地域の人々の自然や景観に対する理解や高い意識が将来に渡り持続可能な自然資質を守り育んでもいます。

人類誕生以前からの地球の営みをとどめ、人と人との歴史からうまれた巨人伝説が語り継がれているジャイアンツ.コーズウェイ。

海と人との結びつきや歴史を実感させてくれる、ダンルース城にキャリック.ア.リード吊橋。

美しい自然の海岸と潮騒が悠久の時の流れを伝えてくれるコーズウェイ.コーストは、私の好きな場所でもあります。


  【参考図書】
・地球の歩きかた「アイルランド」 ダイアモンド社(2010年)
・「旅」(アイルランド美しき旅) 新潮社(2009年)
・「ナショナル トラスト」木原啓吉:著 三省堂(2000年)
・「景観保全とナショナル トラスト」今枝美貴:卒業論文
  桜美林大学国際学科(2007年)






【作者プロフィール】
相馬正弘(そうままさひろ)
・京都市出身
・設計事務所を開設し、地域計画.都市計画.公園計画を中心に活動中
・大学の講師として後進の指導も
・趣味は、旅行.テニス

新連載「My Favorite Travels And Places(私の好きな旅と場所)は
ケータイ・サプリwebマガジンのための書き下ろしです。
使用されている写真の著作権は相馬正弘さんと記載されている方にあります。