My Favorite Travels And Places
(私の好きな旅と場所)


31.バリギャリー城(Ballygally Castle)


【はじめに】

今回は、北アイルランドのバリギャリー城(Ballygally Castle)を訪ねます。

城のあるバリギャリーまでは、首都のベルファストから風光明媚なアイリッシュ海沿いの国道2号線(A-2)を北に約40km車で1時間あまりの距離に位置しています。

バリギャリー城は、17世紀に築かれた城を残し隣接して新たに増築された美しいホテルがあることで知られていますが、頻繁に幽霊が出るミステリアスな城としても知られています。

<北アイルランドの名所とバリギャリー城>


<バリギャリーの村と海岸>


【バリギャリー城の歴史】

バリギャリー城は、1609年スコットランドのグリーノック (Greenock)から渡ってきた富豪で建築家でもあったジェームズ.ショウ(James Show)によって1625年に居城として築かれたことに始まります。

城はアントリム (Antrim)一帯の丘陵や海岸などで産出する木や石を用い、外周を高い石積みの壁で囲んだ敷地に、四階建ての切妻屋根に円錐形の小塔と暖炉の排煙塔のあるスコテッシュ.バロ二ア様式(Scottish Baronial Style)の小さな城が築かれます。

<バリギャリー城>


<中庭の散策路と花壇>


中庭には、厩舎.牛小屋.鳩小屋.小さな羊の放牧場に花壇と東屋のある庭園も設けられていました。

そして城は、スコットランドなどから渡ってきたプロテスタントの人々の集う場所ともなっていました。

そうしたことから1641年には、イギリスのカトリックとプロテスタントの対立による宗教戦争の影響を受け、近くのグレナム(Glenarm)村に駐屯していたカトリックのアイルランド軍から攻撃を数回受けますが、城は守られ現在も建設当時の姿を留めています。

城はショウ家のウィリアム.ショウ(William Shaw)によって1977年まで維持されますが、1800年代にアグニュー家に売却され一時沿岸警備隊の施設として活用されその後数人の富豪に転売されます。

1950年代にイギリスの繊維業で財を成したシルリ.ロード卿(Sir Cyril Lord)により買収され、1966年にヘイスティング.ホテルグループ(Hastings Hotel Group)が城に隣接し最新設備の整ったホテルを開業します。

<バリギャリー城ホテル>


【幽霊と出会える城】

バリギャリー城は、約400年の歴史の中でイギリスとアイルランドの政治や宗教の覇権争いの舞台ともなります。

そして喜びや悲しみなど人々の様々な思いが刻まれます。しかし成就し得ない思いの幾つかがいつしか幽霊伝説を生み、幽霊と出会える城と言われるようになります。

いずれの幽霊伝説も歴史に登場する実在の人物にまつわる話です。

最も古い伝説はこの城を築いたジェームス.ショウの妻イザベラ.ショウ(Isabella Show)の幽霊の話です。

彼女はショウ家を継ぐ男子の相続人を生めなかったこと(娘を出産)と水夫との恋の噂に嫉妬した夫ジェームスにより、城の螺旋階段を登りきった最上階の部屋に監禁されます。

<イザベル.ショウが監禁された部屋>



娘にも会えず絶望に打ちひしがれるイザベラは、小塔の窓から身を投じ自殺したとも夫ジェームスに突き落とされて亡くなったとも言われていますが、真実のほどは定かではありません。

彼女の死後、城の上空に幻想的な緑の霧がたちこめたり、夜中に監禁された部屋の戸を開けようとする音や不思議な声が聞こえると言われ、又母を捜す娘が部屋の戸を叩く音もしばしば聞こえると言われています。

1780年代の城主で所有者であったジョン.ショウ(John Show)は、姉妹の夫で義弟のマカール(Dr, McCullough)に財産分与を迫られ、拒否したことから殺害されます。

そして、彼は幽霊として出没し、殺害したマカールやかかわった人々を悩まし続けたことから、やがてマカールらは城を後にしています。

又、18世紀に城に住みこの地で亡くなったでニクソン夫人(Madame Nixon)は、死後も催されるパーティーに出るため部屋で長い絹のドレスに着替え、その絹ずれの音が階下で聞かれることがあると言われています。

そして、彼女が客室をノックして歩き回る姿(幽霊)もしばしば見かけられるとも言われています。

【幽霊をいたわる思いと優しさ】

イギリスやアイルランドの古城には、幽霊伝説が多くあります。

中でもバリギャリー城は、最も幽霊に出会える城の一つとして知られています。

そして幽霊が出没すると言われているにもかかわらず、城を訪れホテルに宿泊する観光客が絶えないのは、怖いもの見たさでしょうか。

かつての歴史の中に現代人がタイムスリップし、イザベラやジョン.ショウの悲しみや苦しみを共有し、いたわる優しさのようにも思えます。

幽霊伝説とは、過去の人々への現代人の思いや思い込みに他ならないのかもしれません。

悲しい幽霊伝説もありますが、現代にタイムスリップしパーティーへ出るために着替えをし部屋をノックして歩く、人懐こい幽霊に出会えそうなバリギャリー城は、私の好きな場所でもあります。



【参考図書】
・地球の歩きかた「アイルランド」 ダイアモンド社(2010年)
・「旅」(アイルランド美しき旅) 新潮社(2009年)
・バリギャリー城ホテル.パンフレット






【作者プロフィール】
相馬正弘(そうままさひろ)
・京都市出身
・設計事務所を開設し、地域計画.都市計画.公園計画を中心に活動中
・大学の講師として後進の指導も
・趣味は、旅行.テニス

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ケータイ・サプリwebマガジンのための書き下ろしです。
使用されている写真の著作権は相馬正弘さんと記載されている方にあります。