My Favorite Travels And Places
(私の好きな旅と場所)


34.バレン(The Burrun)
  その3. バレンの生き物(植物と動物)

【はじめに】

今回は、ヨーロッパで最も大きなカルスト(石灰岩)台地と言われるアイルランド
西部クレア州(Clare County)バレン(The Burren)の生き物(植物と動物)達を訪ねます。


バレンは、一見して石灰岩の広漠たる台地のように見えますが、地球創生期から営みの足跡を留めている大地です。


今日私達は、地球の生い立ちとその面影を留めるバレン高原やアーウィーの洞窟等を間近に見ることが出来、そこに住む多くの生き物(植物と動物)に出会えます。


<バレンの位置>


<バレン高原(カルスト台地)>



前回訪ねたアーウィーの洞窟(Aillwee Cave)で息絶え、約1万年前に絶滅した羆(ひぐま)もその仲間と言えます。

<プールナブローンの巨石墳墓遺跡>


<アーウィー洞窟のグレート.カスケード(写真:船山眞紀子)>




【植物相に見られるヨーロッパの植物の縮景園】 

バレンは、アイルランド島全面積の僅か0.5%にみたない地域ですが、
ヨーロッパを代表する三つの植物相(Florae)が見られます。


ヨーロッパを代表する三つの植物相(Florae)
・北極圏植物相 :アークティク.フローラ(Arctic Florae).
・アルペン植物相:アルペン.フローラ(Alpen Florae).
・地中海植物相 :ミディトレ二アン.フローラ(Mediterranian Florae)

バレンにはこの三つの植物相(Florae)の
植物が1uに多い箇所で28種を見ることが出来ます。


そして、アイルランドに自生する野生植物種(草花)約900種中の635種が、又、自生する蘭の28種中の24種が植生調査で確認もされてもいます。


バレンは、まさにヨーロッパの植物の縮景園で宝庫といえます。


代表的なバレンの植物に次の種を上げることが出来ます。


1. 代表的なバレンの樹木。

・西洋ハシバミ
:英名 Irish Hazel
:学名 Corylus avellana
:樹高3-5mで3-4月に総苞に包まれた赤い花を咲かせ秋に
 ヘーゼルナッツ(Hazelnut)を実らせます。
 バレンに生息するマツテン(Pine Marten)や銀行ハタネズミ(Bank Vole)
 など動物の餌ともなっています。

・西洋サンザシ
:英名 Irish Hathorn
:学名 Crataegus oxyacantha var.
:樹高2-4mで5-6月に八重咲きの緋色の可憐な花をつけます。


・エリカ
:英名 Irish Wildheath
:学名 Eraica erigena
:樹高1-2mで世界に約700種あるエリカのヨーロッパ原産種で、
 4-5月にかけて小さな釣鐘型の淡桃色や濃桃色の可憐な花をつけます。


<エリカ>




2. 代表的なバレンの草花。

・春リンドウ
:英名 Spring Gentian
:学名 Centiana thunbergii
:草丈6-10cmで3-5月に2-3cmの澄んだ青紫色の可憐な花をつけます。


・バーネット.ローズ
:英名 Burnet Rose
:学名 Rosa pimpinellitolia
:樹高約1mほどで石灰岩台地や海岸に自生する野生のバラで3-6月に5-7cm
 の純白の可憐な花をつけます。


・チョウノスケソウ(長之助草)
:英名 Mountain aven
:学名 Dyas octopetala
:樹高10-20cmほどのバラ科の常緑低木で6-7月に3-4cmの白の可憐な花を
 つける氷河時代の残存植物です。


3.代表的なバレンの蘭

・Dense flowered Orchid
:学名 Neotinea maculate
:20cmほどの草丈に5-6月にかけクリーム色や淡桃色の可憐な花を
 茎一杯につける蘭です。


・Fragrant Orchid
:学名 Gymnadenia conopsea
:50cmほどの草丈に6-7月にかけ白色と淡紫色でほのかに柑橘類の香りを
 漂わせ可憐な花を円筒房状につける蘭です。


・Fly Orchid(蠅蘭)
:学名 Ophrys insectifera
:60cmほどの草丈に5-6月にかけ黒色や黒褐色で名前の通り蠅(Fly)の様な
 擬態をした花をつける蘭です。
 ラン科のOphrys(オフィリス属)は、蠅のほかに蜜蜂や熊蜂に蜘など昆虫の
 雌そっくりの擬態やフェロモン(Pheromono=外分泌物)と同じ匂いを持つ花を
 つけ、雄が交尾をしようと飛来することにより受粉される蘭です。


バレンの植物は、これらの他にも、草本類.地被類.蘚苔類等々が繁茂し多様です。


【自然と共生.共存する動物達】

バレンの動物達も、地球の生い立ちの中で共生.共存し生きながらえてきています。

そして、氷河時代や地殻変動に造山運動などの自然界のさまざまな事象を乗り越えてきた 動物達でもあります。

彼らは、石灰岩の大地やその近縁の森林や草原をコロニー(栄巣地)生物とし、生物群集の中での食物網(食物連鎖)を踏まえた生態的序列構造と、テリトリー(住み分け領域)を築き生きてきています。

バレンの動物には、昆虫類.爬虫類.両生類.鳥類.哺乳類等々が生息し植物同様に多様です。

代表的なバレンの動物に次の種を上げることが出来ます。


1.代表的なバレンの鳥類

・ハヤブサ
:英名 Peregrine Falcon
:学名 Falco peregrinus
:体長40-50cmほどで青みがかった黒褐色に淡い横縞があり喉元が白色をした
 肉食の猛類。


・オオハクチョウ
:英名 Whooper Swan
:学名 Cygnus cygnus
:体長140-170cm、翼開張220-250cmで全身の羽衣は白く、嘴の先は黒色で
 基部は黄色で、バレンに隣接するゴールウェイ湾などの水面に生息しています。


<ダンゴーラ城とオオハクチョウ>




2.代表的なバレンの哺乳類

・銀行ハタネズミ
:英名 Bank Vcle
:学名 Myodes glareolus
:体長10cm内外の茶褐色の齧歯目動物で、森林や草原に生息し雑食性ですが
 バレンに自生する西洋ハシバミやキイチゴに苔なども食べています。


・マツテン
:英名 Pine Marten
:学名 Martes martes
:体長45-60cm赤褐色のイタチの仲間で、森林の樹洞(穴)に巣をつくり
 直径5kmほどの行動圏で生活しています。


・野生のヤギ
:英名 Wild goat
:学名 Capra L.
:ヤギの種類は数百種に及び、新石器時代の紀元前7000年頃から家畜
 として飼育され、現在野生種と家畜種の同定が困難とされバレンのヤギも
 種間雑種もしくは交雑によるヤギが野生化したのではないかと考えられて
 います。


【バレンの生物多様性を紐解く・・・】

バレンの陸域(石灰岩台地)は、約2億6000万年前の地殻変動により海底が隆起したことに起源しています。

しかし、バレンの生き物(植物と動物)達は、それ以前の地球創世期の古生代(約5億−2億5500万年前)の造山運動(カレド二ア: Caledonia造山運動やバリスカン:Variscan造山運動)氷河時代の氷河の移動や火山爆発.地殻変動などの自然界の事象の中で生きながらえてきた生き物(植物と動物)達です。

氷河時代の温暖期にあたる間氷期に繁茂した植物は、結氷期にあたる氷期の氷河によって
削られたモレーン(Morain)と呼ばれる岩石.岩屑.土砂等とともに氷河の中に
その種子や胞子などを残し、氷河の谷間や底部に堆積し氷河とともに流れ大地(大陸)を移動します。

氷河の道筋や河口部に堆積した植物の種子や胞子は、
その後の新生代(約7000万年前)のアルプス: Alpes造山運動により形成された北極やアルプスに地中海などの地域へと共に移動します。

そして、新たに形成された地形や気候の影響を受けながら進化し特化し三つの植物相が構築されてゆきます。

ヨーロッパにおける三つの植物相に生育する植物とそこに生息する動物は、氷河と造山活動によって一つの相域から三つの地域への相域へと分化していったものです。

バレンは、縮景園の花園のように映る植物とそこに生息する動物により、
古生代から命をはぐくみながら生物の多様性を留めているといえます。

<地球年代表>




【人の知らないはるかな古生代から・・・】

バレンの生き物(植物と動物)達は、約300万年前に生存していたとされる最古の
人類と言われる猿人アウストラロピテクス (Australopithecus)の存在より、
はるか以前に出現し命をはぐくみ地球の生い立ちを見つめてきた生き物達と言えます。

数億年前から石灰岩台地の裂け目や割れ目に根を下ろし、花を咲かせてきた植物そしてそこに生きてきた動物に、自然の驚異と生命の神秘を覚えます。

<バレンの石灰岩に根をはる植物>




古生代からの大地に生きながらえてきた生き物(植物と動物)達と出会え、悠久の思いを巡らすことの出来るバレンへの旅は、私の好きな旅でもあり好きな場所でもあります。





【参考図書・引用図書】
・地球の歩きかた「アイルランド」 ダイアモンド社(2010年)
・「旅」(アイルランド美しき旅) 新潮社(2009年)
・Aillwee Cave 公式ウエブサイト(2012年)
・「The Burren & The Aran Islands」Tony Kirdy 著The Collins Press(2010年)







【作者プロフィール】
相馬正弘(そうままさひろ)
・京都市出身
・設計事務所を開設し、地域計画.都市計画.公園計画を中心に活動中
・大学の講師として後進の指導も
・趣味は、旅行.テニス

新連載「My Favorite Travels And Places(私の好きな旅と場所)は
ケータイ・サプリwebマガジンのための書き下ろしです。
使用されている写真の著作権は相馬正弘さんと記載されている方にあります。